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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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4-16

 「なあ、やっぱり食べ過ぎじゃないか?今日回った屋台のほとんどをお前ひとりで食ってるだろ」


 「うるさいですね。屋台コンプリートするぞって息まいてたのはエル……エリーお嬢様の方じゃないですか。私はこんなにも……あむっ……協力して差し上げているのに……もぐもぐ……そんな言い草……あ、これ美味し……」


 「……また肥満のバッドステータスが付いても知らんからな」


 廻った屋台で買い込んだ料理の一つである、串焼きの棒を咥えながら、そのソースと油で口元を汚したメイリを横目で見つつ、エルハルトはため息をついた。


 「そんな事より、もうそろそろ始まるぞ」


 エルハルトはそんな暴食の悪魔に囚われているメイリの救出を諦めて前を向くと、いよいよ始まらんとするサマーフェストの締めであり、最大のイベントである“フィナーレ”をその特等席から存分に見渡せるように身を乗り出した。


 「大丈夫ですか、エリーお嬢様?ちゃんと見えますか?また抱っこしてあげましょうか?」


 「うるせえな!!ちゃんと見えてるわ!!っていうかやめろ!油とソースでぎったぎたの手で迫ってくるんじゃない!」


 エルハルトはフリルのついた袖口をぶんぶんと振って、迫るメイリを追い払うと、改めて、手すりから身を乗り出して、階下に見える中央広場を見下ろした。

 中央広場の中心には木材を組み上げた、まだ火を入れられていない焚火が置かれていた。祭りの締めであるフィナーレでは、魔女を象った人形を乗せた山車が、最後に大通りを練り歩き、終点である中央広場へとたどり着いた魔女を、山車ごと火をつけたその焚火の中へと投げ入れる。

 エルハルトたちがいる、この教会の上にそびえる八角形の鐘楼は、それらを一望できる絶好の特等席だった。馬鹿と煙は高いところに登りたがると言うが、馬鹿は馬鹿なりに高いところを目指す理由があるのだ。


 「メアも……このフィナーレを見られているかしら……」


 大通りの入口にある、石造りの門から、パレードの先端が入場を始めた。魔女や魔法使い、使い魔の悪魔や、幽霊に扮した人々が、魔女を乗せた山車の周りを騒ぎ立てながら練り歩く。

 いよいよ開始された終焉に、メイリもエルハルトの隣に並び、同じように手すりに体重を預け、鐘楼を取り囲むアーチ状の柱の隙間から、階下に広がるそのトンチキ騒ぎを見下ろした。

 メイリの誰ともなしに呟いたその言葉に、遠くの喧騒が楽し気な悲鳴で答える。

 メイリは遠くに見えるその喧騒に比べて、この遥か高みにそびえたつ鐘楼がやけに寂しく、いつもより少し広くなった八角形の空間に、何か言いようのない居心地の悪さを感じていた。

 

 「……きっとメアにとっても今年の夏は特別なものとなったはずだ」


 徐々に熱を高めるパレードの喧騒を黙って眺めていたエルハルトが、大通りの中間までやって来て、熱を感じられるくらいの距離に達したそれらの一群を目の前にして、呟くように言った。


 「そう……ですね……」


 「なんだ?妹が恋しいか?だめだぞ、メイリ。お前ももうそろそろ妹離れしないと」


 「そんなことする必要あります?」


 「ええ……」


 「ああ、やっぱ、もう駄目だ……今すぐメアをここに呼び出しましょう!」


 「いや、待て待て。一緒にいるはずのアリアさんとミーシャはどうなる。さすがに全員で見るにはこの鐘楼は狭すぎるぞ」


 「気合で何とかしましょう」

 

 「いや気合じゃどうにもならんだろ……それに――」


 エルハルトは一旦言葉を切って、アーチの隙間から階下を見下ろすと、大通りを伝って、教会の真下まで迫ってきたパレードの一団の中に見知った顔を見つけて、そのまま言葉を続けた。


 「あんなに楽しそうにしている彼女たちを、こんな寂しいところまで攫って来ることも無いだろう」


 「――――そう、ですね……」


 メイリもエルハルトの視線を追ってその顔たちを見つけると、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの無表情に戻って、ただ一言そう呟いた。

 魔女の仮装をして、楽し気に笑うメアと、それに負けないくらい満面の笑みでそれに答える、幽霊の仮装をしたアリア。そしてそれを微笑まし気に見守る使い魔の仮装をしたミーシャ。

 パレードに加わる彼女たちの笑顔を、エルハルトは背の高い、寂しい教会の鐘楼から見下ろす。

 その楽し気な笑顔は、見下ろすエルハルトからあまりに遠い。だけどエルハルトはその距離に少しだけ安心感を得た。


 「わかってるさ、僕だって……メアの本当の望みくらい」


 「エルハルト様……」


 「でも僕の望みはそれだけじゃ足りない。だからきっといつかお前にもあの場所からの景色を――」


 「エルハルト様はどうなんですか?」


 「僕は――」


 「この梯子を下りて、通りに出れば、きっと今のあなたなら誰にも咎められることなくパレードに加わることができる……」


 しかし、その距離は彼女から見たらずっと短いものだったのかもしれない。距離と時間が相対的なものであることはずっと昔から証明されている事実だった。


 「――僕はそんなに器用じゃないんだ」


 見つめるメイリの視線にエルハルトは顔を俯かせると、少しだけ時間を置いてそう答えた。

 ミニチュア模型に自分の人形を加えることは、彼の数ある作品の中で、未だ試みられたことのない手法の一つだった。


 「私もです。エルハルト様」


 メイリはエルハルトの言葉に、あえていつもの調子でそう返すと、遠くの景色を眩しそうに眺めるエルハルトの横顔を盗み見て、彼に気付かれないように少しだけ自分の立ち位置を彼の近くに寄せた。メイリの望みは彼の隣にいられること、いてあげられる存在になること、ただそれだけだった。



 ――――……


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