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「はあ、後はやっぱあいつしかいねえな………」
しかし、生きる世界は違えど、この地続きの世界ではそれらは頻繁に交差して、様々な厄介な問題と掛け替えのない出会いを生み出す。今エルハルトたちはその厄介な問題を解決するために橋渡しとなる存在が必要だった。
トゥルルルル………トゥルルルル………
魔法で念話を繋ぎ、彼女の応答を待つ。彼女はその役目を負う存在だった。彼女は世界の共存を夢見て、今その夢の中にいる。
………ガチャ
『え、エル君!?あ………もしもし?珍しいね、エル君の方から掛けてきてくれるなんて』
『ああ、久しぶりだなミーシャ。今ちょっと時間あるか?』
かつて勇者と呼ばれた冒険者、ミーシャ。きっと彼女ならば人の世にそれなりの伝手があるだろう。
『うん!大丈夫だよ!!』
『ああ、助かる。いきなりで悪いんだが、玲瓏館のボスドロップ問題が話題になっていることは知っているか?』
『え?なにそれ――――……あ、うん――――えっ!?今更!?』
どうやら彼女は今一人ではないらしい。しかも念話をスピーカーモードにしている。やはり陽キャは生きている世界が違う。だがしかし、念話は基本的には許可したものにしか聞こえないし、エルハルトもミーシャのことはよく知っている仲なので、彼としてもそれについて今更とやかく言うつもりもなかった。
『そうだ。だからお前の伝手を使って、それなりの公共機関から今一度公式な声明を出せないか打診をしてみてくれないか。もし関わりたくなかったら人を紹介してくれるだけでもいい。礼ならする』
『え………ああ、なんだそういうことか………うん、良いよ。エル君だったら………とりあえず私の方で心当たりを当たってみるね』
ミーシャはエルハルトの依頼を快く承諾をしたものの、心なしかその声にいつもの元気はない。
『すまない、助かる。その代わり礼は弾むぞ、何でも言え』
『え、いいよ、礼なんてそんな――――………え!?いや、それは大胆すぎじゃない!?いや、何でもとはいったけどさ――――』
エルハルトは念話越しに行われる会話に何か嫌な予感を覚えたが、何も言わず彼女たちの談合が終わるのを待った。
『ごめんねエル君、待たせちゃって――――それでなんだけどね、せっかくだから、その……えーと……何でもお願い、聞いてくれるんだよね』
『ああ、そうだと言っている。早く言え』
『ああ、ごめんごめん……!えーと、それでなんだけどね………この間村に新しくできたカフェがあるんだけど………エル君は知ってる………?』
『知らん、それがどうした。早く言え』
『ああ!ごめんね………!言うから………!えーと、そこに………私を………連れてって欲しいなあ………なんて………だめかな………?」
『は?』
『ああ!ごめん!うそうそ!冗談!やっぱ駄目だよね!そのカフェカップル限定のメニューがあって、受付の時にカップルですって言わなくちゃいけなくてそれで今だとカフェの中がカップルだらけになっててもし私がエル君と行ったらほんとにカップルに見えちゃってそしたら知り合いに見られて、「あ、あの二人付き合ったんだー」てなっちゃって第一私達そういうんじゃないけど限定メニューを食べるために仕方なくっていうか、あーでもこういうのなんか楽しいよねってなってそれでそんなの駄目だよ無理無理そんなの恥ずかしすぎる駄目――――』
『ああ、なんかよくわからんが、それぐらいなら別にいいぞ』
『え、いいの………?』
エルハルトは正直もうすでにちょっとめんどくさくなっていた。
『ああ、正直よく聞き取れなかったが、お前がなにか悩みを抱えているのはわかった。お前には貸しがある。僕でよければ力になろう』
『えー!?ほんとに!?良いの!?うれしい!―――いや、最近エル君と話せてなくて――――』
『ああ、いいぞ。少しくらい高くても奢ってやる』
『えーそんなの悪いよ』
『これは謝礼ではなかったのか……まあ、良い。さっさと段取りを決めよう』
『あ!そういえばそうだった………!じゃ、じゃあ今度の………えーと、いつが良い?玲瓏館お休みの日の方が良いよね?』
『ああ、それなら次の月曜日だ』
『月曜日………月曜日ね、わかった!!ごめんね、長くなっちゃって』
『いや、いい』
『じゃ………じゃあね。えーと………楽しみだねっ。あ、まだ時間はわからないから、また前日に連絡するね、えーと――――』
『ああ、委細承知した。僕も当日を楽しみにしている。じゃあ切るぞ。またな』
『うん、またね――――』
ブツッ………ツー、ツー
「はあ………長い………」
「エルハルト様………」
「ああ、メイリ、まだいたのか」
「っ………エルハルト様、長時間のお念話お楽しみになられて何よりでございます」
「ああ、そうだ、今勇者ミーシャと念話して、先ほどの件について彼女の伝手で何とかならないか掛け合っていたんだ」
「へーそうですか、それにしては楽しそうに会話をなさっていましたので、それはそれは上手くいったのでしょう」
「ああ、彼女が打診して公的な機関から声明が出れば、いずれ事態は沈下していくだろう」
「それはようござんした。主様のご心労が減って何よりでございます」
「なんか口調がおかしいぞメイリ………」
「そんな事よりエルハルト様………今度の月曜日なのですが――――」
「ああ、そうだ、月曜日――――さっきの件とは直接関係は無いんだが、見返りとしてミーシャを新しくできたカフェかなんかに連れていくことになった。だから少し家を開けるぞ」
「――――………そう………ですか」
「もし僕に用があるのなら、すまないがその後にしてくれないか。それほど時間も掛からないだろうしな」
「………いいえ、結構です。大した用事ではありませんでしたので………」
「………そうか?別日でも構わないと思うが………ああ、それか良かったらお前も一緒に来るか?お前も今回は大変だったろうし、二人まとめて奢るぞ」
「――――――…………」
「ん?どうした?遠慮はいらないぞ」
「いいえ!結構です!私たちに気にせず、二人っきりでカップル限定メニューをお楽しみくださいませ!!」
そういうとメイリは少し荒っぽく扉を開けるとそのまま、すたすたと立ち去ってしまった。
「なんだ?そういえばあいつも限定メニューがどうだかって言ってた気がするな………メイリも食べたかったのかな。なら素直にそう言えばいいのに」
素直とは遠くかけ離れたエルハルトはそういって、どこか寂しさを感じる自室の扉を見つめた。
――――――…………
――――……
――……