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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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4-5

 「ゲームって何かと思えば、ビデオゲームの事だったのか」


 アリアの表情に何かを察したメアが、これ以上険悪な雰囲気を長引かせないために、さっさとエルハルトたちを連れ出して、一行は目的地である食堂までやってきた。

 エルハルトは食堂の長机に展開されたゲーム機器と、それに接続された大画面の薄型モニタを見て、少し驚いたようにいった。


 「エルハルト様、今時“ビデオゲーム”呼びは爺臭過ぎですよ」


 「う、うるさいな。じゃあ、他になんて言えばいいんだよ。ついこの間までゲームと言えばボードゲームだったろ?」


 「そもそも、携帯でもゲームができる時代に、ゲームだけで通じるわけないでしょ。今の時代大体は、ゲーム機器の名前かソフトの名前で区別するんです。コンピューターゲームが全部ファミ〇ンだった時代は終わったんですよ、お・じ・い・ちゃ・ん」


 「くそう、ファミ〇ンって言うのは我慢できたのに!僕はこれでも甘かったのか……!」


 「あのう、もういいですか?」


 「「はい、どうぞ」」


 また長々としたネームド漫才が始まりそうな気配を察したアリアが、二人の会話に横入りして断ち切った。


 「…………じゃあ、早速始めましょうか。えーと、どうしよう……最初はこれとかが良いかな……最後には大体は運ゲーになるし……」


 皆が各々に用意された席に着席したのを見届けて、アリアはゲームのコントローラーを握ると、予めピックアップしていたいくつかのタイトルの内、某配管工とその愉快な仲間たちがすごろくをしたり、ミニゲームしたりするパーティなゲームを選択して起動した。


 「な、なあ、メア、どうしていきなりみんなでゲームすることになったんだ?どう考えてもメイリ以外それを望む奴はいないと思うのだが……はっ――――もしかして、メイリが俺つえーしたいから、無理矢理みんなに強制して――」


 エルハルトが隣に座るメアに、同じくエルハルトの隣をキープしたメイリと、その奥で額にしわを寄せてコントローラーを握るアリアに、その声が聞こえないように小声で尋ねた。


 「お、落ち着いてくださいエルハルト様。意外かもしれませんが、アリアちゃんはとってもゲームが上手なんですよ?これはむしろアリアちゃんのためのレクリエーションなんです」


 「いや、そうは見えないんですけど……なんかさっさと終わらそうとしてるような気配を感じるんですけど――」


 一応解説しておくと、それはエルハルトに対する彼女なりの優しさだった。貴重な休日をこんなくそみたいなイベントで消化させてしまう負い目からの――


 「よっしゃあ!気合入れて行くぞ!ニューレコード全部書き換えてくぞこの野郎!」


 「え?これ何?誰の台詞?一応メイリの声なんだけど、台本の指定合ってる?」


 合ってる。


 「もう、メイリさん、気合入れ過ぎですよ。エルハルトさんは初心者なんでしょ?ゲームはみんなが楽しんでこそ、その価値があるんですよ?」


 アリアがゲームのオプションを設定しながら、ちらりと隣に座るメイリとエルハルトの方を見た。


 「何言ってるんですか、アリアさん。中途半端に手を抜かれて、仮初の勝利を得たとしてもそれにどれほどの価値があるでしょう?お互い全力で、苦しんで苦しみぬいた先の勝利こそ本当の価値がある、本当の楽しさがある、そうじゃありませんか」


 「はいはい。でもこれは大体運ゲーだからね、負けても文句言わないで下さいよ。電源落としたりもしないで下さいね」


 「ふふっ、私がそんな弱者に見えますか?」


 「逆に何でこのゲームシステムでそんなに自信があるんですか……」


 だけど、楽しそうに(?)ゲームについて語らう二人の姿に、エルハルトは自らが思い違いをしていたことに気づいた。


 「いや、そうでもないか……ふっ……ならば、折角だし、僕も全力で楽しむとしよう」


 「ええ!私もこれまであまりこういったものには触れてきませんでしたけど、お姉さまとアリアちゃんのためなら、私も不慣れながら全力で取り掛からせていただきます!」


 気合十分なメアを見て、エルハルトもうんうんと満足げに頷いて、慣れない手つきでコントローラーを握る。


 「さあ、始めようか。僕たちが初心者だからって手加減は――」


 「ふっ、アリアさんもまだまだですね。最強のゲーマーは全てが必然。たとえこれが大体が運ゲーのパーティなゲームだったとしても、勝利の女神が微笑むのは、真の強者だけ。くれぐれも負けたときに下手な言い訳をして、場を盛り下げる事だけはしないでくださいよ」


 「ふっ、メイリさんの方こそ、負けた時の言い訳を考えておいた方が良いんじゃないですか?だって、勝利の女神は真の強者にしか微笑まないんでしょ?」


 「ほう?いつもと違って随分な自信ですね?もしかしてアリアさん、コントローラー握ると性格変わるタイプだったりします?」


 「っ……――――別にいつもと同じですよ……ゲームに関しては少しだけ自信があるだけです」


 「ふーん、そうですか。でも、あなたってずっと家で引きこもってたんでしょ?一緒にゲームやってくれた人とかいたんですか?いないですよね?だったらあまりそういう事は言わない方が良いですよ。これは人対人の真剣勝負。CPU相手のお遊びとは訳が違いますからね」


 「…………」 

 

 ノンデリクイーン、メイリ。ギリギリのラインを平気で超えてくる女――

 ちなみに彼女のもう一つの特技はブーメランを投げることである。


 「ええ……?なんか雰囲気悪くない?僕たちあの人たちの間に入っていいのかな?……なんか凄い居心地が悪いんじゃが……」


 「……安心して下さいエルハルト様。みーとぅーでございます」


 なぜか一触即発の雰囲気を漂わせている二人に、折角の気勢が削がれていくのを感じるエルハルトとメア。そして――


 「それに、この流れは――」


 そしてエルハルトはこれまでの人生経験から、これから起こる出来事をなんとなく察した。 

 

 「――――……じゃあ、メイリさん、そこまで言うのなら賭けますか?負けた方が勝った方の言う事を何でも聞くって言う――」


 「ああ!やっぱり!」


 「え、エルハルト様……」


 エルハルトの悪い予感は良く当たるのだ。


 「ん?今何でもって、言いました?」


 「ええ、何でも――」


 「やめろ!!乗るなメイリ!!戻れ!!」


 エルハルトは急いで、もう二人だけの世界になりつつあるアリアとメイリの間に割って入ろうとするが――


 「――――……いいでしょう。勝負です。アリアさん」


 「ふっ、さすがの自信ですね、メイリさん。ではチーム分けはこのくじで――」


 もう時すでに遅し……アリアがどこからともなく二本の割り箸を取り出して、先っぽに塗られた青と赤をメイリに見せた。


 「赤がメアちゃんとで、青がエルハルトさんとのチーム……」


 「やっぱこうなるじゃん!!っていうか、展開がスムーズ過ぎるよ!いつの間にそんなの用意したのアリアさん!?」


 「そりゃあ、経験値的に二対二で別れるのが自然でしたから――」


 「いや、まあそうだけど……そんな重い賭けをするんなら話は別だよ!!もし僕たちの所為で負けたら責任取れないじゃないか――」


 「何言ってるんですか?エルハルト様。これはその点を含めての勝負ですよ?初心者をどれだけフォローできるかも、ゲームの実力のうちの一つです。そして、もちろんチームなら罰ゲームも共有。連帯責任です。五人組です。当事者意識はしっかり持っていただかないと……そうですよね?アリアさん」


 「……まあ、そうですね――メアちゃんもそれでいいよね?これは真剣勝負。危機感をチームで共有することができないと、ここから先は生き残ることはできない――」


 「ええ……?でもさっきアリアちゃん、大体運で決まるゲームだって――」


 「わかるよね、メアちゃん。これは遊びじゃないの」


 「え?あ……はい、わかりました……」


 「では、メイリさん、くじを引いてください」


 「ええ……」



 ――――……



 「知ってた」


 そして、厳正なくじ引きの結果、青のエルハルトを引いたのがメイリ。赤のメアを引いたのがアリアとなった。


 「エルハルト様。まだゲームは始まってもいません。たとえエルハルト様の幸運のステータスが最低ランクだとしても、私たちの日ごろの行いを知っている神は私たちを見捨てはしないでしょう」


 「いや、見捨てたからこうなってるんだろ。この組み合わせだったらもう負け確定みたいなもんだろ」


 だけど、どうしてだろう。まだチーム分けが終わっただけなのに、エルハルト・メイリチームの机はもう敗戦濃厚な雰囲気が重々しく漂っていた。


 「メアちゃん、私、もう罰ゲームは考えてあるの。だから、メアちゃんは何も気にせずゲームを楽しんでくれるだけでいいからね」


 「えっと……はい……!私、頑張りますね!アリアちゃん!」


 対して、対岸のメア・アリアチームは、打って変わって、凪いだ海のような落ち着きが彼女たちの領地である長机を支配して、開戦前の一触即発の雰囲気に、少し固くなっていたメアの表情も、アリアの(上辺だけは)優し気な微笑みに、いつもの調子を取り戻して、その愛らしく可憐な笑顔を、アリアに向けた。


 「そもそもお前、この前また仕事サボってゲームしてただろ!!よくその口で日ごろの行いとか言えるな!?狭量な神様だったらお前、今頃塩だぞ、塩」


 「なっ……それは元はエルハルト様が――――それにエルハルト様だって!!この前裏山でまた新しいダンジョン魔法の実験してたでしょ!?別に私はミーシャさんに言いつけたっていいんですよ?」


 「なっ……!お前!それは違うだろ!!本当に実行力がある天罰を呼び寄せるのはやめろ!!」


 そして、また対岸のメイリとエルハルトの島に視線を戻すと、間者を送られたわけでもななしに、勝手に仲間割れを起こして、今にも分裂の危機に陥っていた。


 「ふっ……メアちゃん、これはもらったも同然だよ――」


 対岸を油断なく監視していたアリアが、副官たるメアに告げる。


 「あ、アリアちゃん……?」

 

 対岸の世情はまさに敗戦濃厚の末期にはよく見られる光景。追い詰められた者たちの醜い責任の擦り付け合いは、対岸の軍師に大きな自信を与えた。 


 「メアちゃん……!!今だよ!!ゲーム開始の宣言をして!!」


 「え!?あ……はい!!――――ゲーム開始ぃーーー!!」


 機を見るに敏。軍師アリアは混乱する敵陣地の様相を見て、開戦ののろしをメアに上げさせた。玲瓏館の昼下がりの、夏の香りが微かに漂い始める季節のころだった。


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