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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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4-2

 「だから……ええと……なんでしたっけ……?」


 仕切り直し。


 「まあ、この話はこれくらいでいいだろう。君は君にできることを精一杯やって、望みを叶えた。それでいいんじゃないか?」


 「それはそうですけど……結局私、あの頃と何も変わっていないんです。私は何も変えられなかった……だから、あの時と同じように全てをあの場所に置き去りにすることしかできなかった」


 しかし、アリアにはまだ、故郷に心残りがあった。 

 アリアは結局全てを故郷に置いてきてしまった。そしてその置き去りにしたものを彼女自身の力では、もう二度と取りに戻ることはできなかった。


 「でも、それは君が両親と向き合った結果なのだろう?」


 「――はい……」


 だけどそれが彼女の、彼女たちの選択だった。彼女はその選択を両親に告げる段階になって初めて、それが示す本当の痛みを知った。


 「そうか……――――なら、改めて礼を言うよ、アルスティアさん。ありがとう、ここを選んでくれて」


 「いえ、こちらこそ……ありがとうございます、こんな私をもう一度受け入れてくれて」


 「うむ……――では、もし君さえよければ、これからはここを二つ目の故郷として、帰るべき家として扱ってもらって構わない。代わりにはならないだろうが、もしそれで少しでも君の痛みが和らぐのなら、僕はいつまでもここで君の居場所であり続けよう」


 「エルハルトさん……」


 たとえ居場所が変わろうと、自分自身の問題は何一つ変わらない。だけど、少しずつ変えていく為の拠り所にはなれるはずだった。


 「それに――」


 エルハルトはそこで一つ息を入れると、何かを待つように応接間の両開きの扉を見つめた。その視線は、その先の何かを待ちわびているようにも見えたが、それよりももっと先のなんとも言えないような結末が待ち受ける未来に、どこか申し訳なさのような含みも感じる不思議な視線だった。


 「エルハルトさん……?」

 

 問題は変わらなくても、空気は変わる。

 その時、まるでタイミングを計っていたかのように、応接間の扉が勢いよく開かれた。

 突然黙り込んで、視線の先の扉を見つめるエルハルトに、アリアは何か言いようのない不安を感じたが、その正体を彼に尋ねる前に、扉は勢いよく開け放たれて、受け入れがたい真実を彼女に叩き付けた。


 「あー!アリアちゃん、遅かったじゃないー!」


 「アリア、しばらく振りだな。ちゃんと一人でたどり着けて偉いぞ」  


 「…………?――――え?」


 そして、計っていたかのように、ではなく、間違いなく出てくるタイミングを見計らっていた二人は、満を持して、開け放たれた扉をくぐると、呆然と立ち尽くすアリアの前に出て、二人仲良く並んだ。


 「ふふっ、さぷらーいず」


 「アリア、すまない……でも、あそこの分岐路はトリオン町方面に向かった方が早く着けるぞ。新たに峡谷に橋が架かったからな」


 目の前に並んだ二つの顔をしばらく見つめて、アリアはようやくそれが人違いでないことを確認した。


 「ええーー!?どうして……!?どうしてここにお母さんとお父さんが!?」


 「ドッキリ大成功~~!」


 「すまない」


 ドッキリ大成功!!と書かれた看板を持たされたアルドが、申し訳なさそうに看板の裏に隠れた。


 「――――ということなんじゃよ……」


 「どういうことですか!!」


 目を細めて頷くエルハルトにアリアの鋭いツッコミが飛んだ。

 彼女は未だ混乱していた。何分、つい数日前に故郷で、今生の別れとなるかもしれない離別を果たしたばかりの両親が、今目の前にいるのだ。


 「ぐえっ……」


 だから、アリアの少々強めのドツキがエルハルトのみぞおちをクリーンヒットしたとしても、彼に同情する言葉は無く、むしろ身から出た錆としか言いようがないのである。


 ――――……


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