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「なんですか、このくそダンジョン。どうせ『黒き森ぃ〜』とか言って調子乗って作ったんでしょ?本当、ふざけんなよ、あの腐れ職権乱用糞ブラック上司。こんな事ばれたら、謹慎とかじゃ済まないんですからね!」
メイリはそう叫んで、行き場の無い怒りを、襲い来るニチアサソウにぶつけた。
「お姉さま……?」
そんなメイリを黒き森に潜む鴉がギャーギャーと嘲るように鳴いた。
森の不可解な変質と、(自然には植生がないはずの)ニチアサソウの突然の大量繁殖は“彼”の仕業であると断定するには、十分すぎる証拠だった。
「メア、後ろよ」
メイリの斧槍による大ぶりの一撃が、メアの背後から忍び寄るニチアサソウの、根元ごとたたき切って吹き飛ばした。
「――――はっ……ありがとうございます!お姉さま!」
「らしくないわよ、メア。アルスティアさんのことが心配なのはわかるけど――――」
「――――それは、お姉さまも……ですよね」
いつの間にかメイリの背後に忍び寄っていたニチアサソウの蔦を、メアは逆手に構えた、二本の細く鋭い短剣で、木っ端微塵に切り裂いた。
「――――そうね……メア、ごめんなさい……」
二人は続けて襲い来るニチアサソウに備えて、背中合わせに武器を構えた。
「だから、メア……背中は任せたわよ。さっさとアルスティアさんを連れ帰って、エルハルト様にきついお灸をすえて差し上げるの」
「そうですね……今回ばかりは、私も少々、頭に来ております……エルハルト様――」
さすがエルハルトである。全てのヘイトを自分に向けさせることによって、事態の早急な解決を図っているんですねー。え?このダンジョン作った人そこまで考えてないと思う?真顔でそんなこと言わないで……その通りだから――――
「全く、これは本当にやり過ぎよ……やりたいことはわかるけど……アルスティアさんにとったら、下手したら一生もんのトラウマよ……それに今日は休館日だから一般人が迷い込む可能性は低いけど、もし無関係の人を巻き込みでもしたら――――」
――――だ、誰か、助け……
「「ってもう誰か捕まってる!!??」」
一人の女性のか細い悲鳴が上がって、今にも森に飲み込まれそうになっている姿が木々の合間から見えた。
「あ、あれは!――――アリアちゃん……!?」
「いいえ、違うわ……それに、もう一人いる……」
――――待ってろ!今助け……うわああ!
そして、それを助けようとするが、背後から忍び寄る気付かず、自らもまた、絡みつく蔦に手足を拘束される男性が一人。
「た、助けましょう!」
「そ、そうね……」
考えうる限り最悪の状況――玲瓏館最大の危機に肝を冷やしながら、さっさと目の前のニチアサソウを片づけて、森を駆ける二人――
(お願い!!間に合って!!玲瓏館の明日の為に……!!)
……ここから入れる保険ってあるんですかね?
――――――……
たとえ、入れる保険があったとしても保証対象外となってしまう案件がある。もしかしたら今回の案件は、そういったものの一つであるのかもしれない。
「助かりました……こんななんの変哲もない森にもこんな魔物が出るなんて……やっぱりダンジョンの近くは危険なんだ……」
メイリとメアによって救助された男性が、彼女たちに礼を述べつつ遠い目をしていった。
「ありがとうございます……して、あなた方は玲瓏館の関係者のかたとお見受けいたしますが――」
男性とともにニチアサソウに捕われていた女性が姉妹に気づいて、問いかける。
「イイエ、私たちはただのコスプレです。ダンジョンとは関係ありません。ほんとです」
あれ?君もっと嘘上手かったよね?
メイリはギクシャクとしたしゃべり方で、とっさに嘘をついた。
「え?申し訳ありません、てっきり私――」
「ソウデス、お姉さまの言ってることは事実です。このメイド服は本物っぽいですが、偽物です。ほんとです」
君もそんなとこまで姉に似なくていいから。
「……そう、ですか……私たちは玲瓏館に少々用事があって、そちらへ向かっていたのですが……お恥ずかしながら、その……道に迷ってしまって……」
女性は落胆した様子で目を伏せると、さすがに疲れが出たのか、木陰に座り込んでしまった。
「ミラーナ……――――お二人様方、命を救ってくれた手前、非常に申し訳ないのだが、少しの間だけ、手を貸してはいただけないだろうか?出来れば玲瓏館への道案内も頼めるとありがたいのだが……」
座り込んでしまった女性の手を握りながら、こちらを真っすぐ見つめて懇願する男性の目には、姉妹に有無を言わせぬ光があった。
「「ハイ、ヨロコンデー」」
そして、姉妹はその言葉を、一も二も無く飲み込む以外選択肢がなかった。何故なら――
((この人たち、絶対、アルスティアさんの
アリアちゃんのパパとママだ――――))
そう、エルハルトの作ったダンジョンの被害にあった二人の一般人の種族は、見るからにエルフで、顔立ちも(特に母親の方が)アリアと瓜二つだったからである――――
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