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ダンジョン。それは人々の冒険心をくすぐる魔法の言葉。それがいつから存在している機構なのかはたぶん誰も知らない。
「あー、地味に吹き抜けエリアの氷塊に損傷があるみたいだな……あいつら宝箱は全部無視する癖にこういうオブジェクトは壊していくんだよなー……まあたぶん火力が高すぎるだけだと思うけど……」
ダンジョンの中枢、地下にある大結晶が映し出すホログラムを眺めながらエルハルトはぶつぶつと呟いていた。
「うーむ、やっぱりだめかー」
画面に映し出される“管理者権限がありません”の文字列はダンジョンマスターであるエルハルトですら、解決不可能の事象だった。
「く……やっぱり悔しい……僕の魔法が全て使えたら……あんな奴ら……!」
「――――あの……エルハルト様?」
「――――!」
おずおずとした口調の声に振り返ると、メアが薄暗いリスポの入り口で大結晶の淡い光を受けながら、エルハルトを見つめていた。
「ああ、メアか………どうしたんだ?」
「はい……!お取り込み中申し訳ございません……あの、もうそろそろ次のお客様がおいでになる時間ですが……その…………」
「ああ、わかってる。損傷は残り一か所だけだ。あの氷塊は僕にしか直せない、メアはそれ以外の演出をチェックしておいてくれ」
メアは何かまだ言いたいことがあるみたいだったが、それ以上は何も言わずにべコリとお礼をすると去っていった。メアは常にあんなおどおどとした態度だけど、仕事ぶりはこの館の中で最も優秀だった。姉のメイリはおろかエルハルトよりも。だから彼女が不必要として飲み込んだ言葉はきっと仕事には関係のない事だったのだろう。
「あーそんな事どーでもいい!!」
エルハルトは大結晶を操作して映し出したホログラムを“管理者権限がありません”の文字列ごと消し去った。
「こんなの全部茶番なんだよ!それに…………」
たとえその文字列を突破出来たところで、彼らに勝てる保証はない。彼らの技術と力量は日々常に進化し、成長し続けている。何故限りある彼らが着実に進化し続けられるのか……彼らの力はもうすでにこの世界を掌握しつつあった。エルハルトはため息を吐くとリスポの出口へ向かった。
「ダンジョンの機構に守れられているのは僕たちの方かもしれないな――――」
背中を向け、部屋を出ていこうとするエルハルトを、大結晶の不可思議な淡い灯りは無言で見送る。エルハルトはその灯りに振り向いて、もう一度ため息を吐いた。