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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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31/210

2-11

 ――――――…………



 「――――ば、馬鹿な………なんだこの力は……この僕が、こんな下等な種族に………うあああああ」



 ――――…………


 「はい、チーズ――――」


 ――……



 「――――お気をつけてお帰りくださいませ。またのご来館をお待ちしております」


 (このダンジョン攻略からフォトオプまでのフルセット……!これほど煩わしいと思ったことはないわ……!)


 「まだ夜の闇は終わりではない!次こそは貴様らを氷獄へと送ってやる!――――

 ――――……おい、ちょっと待てメイリ」


 「――――何でございましょう、エルハルト様……」


 ダンジョン攻略者の見送りを終えて、足早に背を向けて去ろうとするメイリに、エルハルトはその背中を追うように声を掛けた。


 「お前ちゃんとアルスティアさんの事見てあげてくれてるか?」


 「――――ええ……もちろんでございます」


 メイリの返答の、頭に付いた短い空白に、若干の違和感を覚えたエルハルトは、訝し気に眉を顰めた。


 「んー……?本当か……?忘れてるかもしれないからもう一度言っておくが、この館で暇なのはお前ぐらいしかいないんだ。事務員として専門的なことは教えてやれなくても、どういう流れでダンジョンが経営されてるのか見せてあげることぐらいは出来るだろ?一見関係ないように見せかけて、そういった教育がこの先の業務を円滑に進めるために必要になったりするんだ。だからお前も――――って、聞いてるか?メイリ――――」


 「申し訳ございませんエルハルト様。私は“教育”がありますのでこれにて――――」


 「ああ、すまないな。引き留めてしまって――――」


 「あ、お姉さま、少しお待ちください。今アリアちゃんから連絡があって、メイド服の試着……?が終わったから次はどうすればいいかって……」


 しかし、時すでに遅し。追っ手を何とか躱して、ようやく自由への一歩を踏み出したメイリに、フリーダムタイム終了の知らせが、皮肉なことに彼女が最も愛する妹の口から告げられた。


 「え?はや……もう終わったの!?」


 「なんだどうした。もしかしてアルスティアさんのためにメイド服を選んでやってたのか?」


 「ええ……まあ……」


 「そうかそうか、まあうちは裏方は別に服装は自由だが、確かにアルスティアさんは家元を離れてすぐだし、必要な服をそろえるのには苦労するだろう。その間だけでもうちのメイド服で我慢してもらうっていうのは、あながち悪くないことだとは思うぞ……まあアルスティアさんにとってはちょっと恥ずかしいかもしれんがな」


 「えー?そんなことないですよ!とても似合うと思いますよ!アリアちゃんのメイド服。私ともお揃いになるし、ずっと着てくれたらいいのに……」


 「……申し訳ございません。そういう事なので私はこれにて失礼いたします」


 「おう、すまなかったな疑って。ちゃんとアルスティアさんのこと考えてくれてたんだな。僕は嬉しいよ」


 「はい!お姉さま、よろしかったらでいいのですが、アリアちゃんにこの先もメイド服でお仕事してもらえないかお願いしてみてもらえますか?私、なんとなく嬉しくて……」


 きらきらとした表情で明るい未来への展望を語るメアとは違って、姉の内心は暗く閉ざされ、未来への希望の欠片さえ見出せていなかった。


 「――――ええ……もちろんよ、メア。私だってアルスティアさんと同じ衣装で働けるのは嬉しいもの……」


 「わあ……お姉さま……!」


 「はは……メアはアルスティアさんのことがよほど気に入ったんだな。まあ確かにエルフといえどメアと話せるような若い女の子は、うちにはほとんど入ってこないからな。まあダンジョンだし仕方ないが、それはアルスティアさんも同じだ。彼女が一人にならないように、良かったらこの縁を大切にしてメアからもアルスティアさんを気に掛けてもらえば助かる。もちろんメイリもな、頼むぞ」


 「はい!もちろんです!」


 「ええ、もちろんでございます……」



 ――――――…………


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