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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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2-9

 「おはようございます!アリアちゃん!もうお目覚めでしょうか?」


 「うん、起きてるよメアちゃん……待っててね、今開けるから」


 アリアが扉を開けるとそこにはなんとも見目麗しい、白髪の美少女がメイド服を着て、満面の笑みを浮かべて立っていた。


 「おはようメアちゃん――――もしかして、メアちゃんって朝でも血圧高いタイプ?」


 「けつあつ……?良くわかりませんが、朝の目覚めで苦労したことは一度もありませんよ」


 「え?ほんと……?」


 「はい!昔はエルハルト様も私が起こして差し上げていたんですよ」


 「……それ何てギャルゲ?」


 「え?」


 「ごめんごめん。忘れて……私も今日は朝の目覚めは良い方だったから、もう今すぐ働けるよ」


 (嘘。本当はちゃんと眠れなかっただけ)


 「そうですか……?それは良かったです。でもお仕事の前にはまずは朝食ですよ、アリアちゃん。まだ朝食はお済みでないですよね?よろしければ朝食も私たちとご一緒いたしませんか?」


 「うん……まだ食べてないけど、でも、いいのかな……昨日もお夕飯いただいちゃったし……そもそも私、朝食は食べなくても大丈夫なタイプだし……」


 「だめですよ、アリアちゃん。ちゃんと朝食は召し上がらないと。さあ、こちらです。私と一緒にご飯食べましょう?」


 「――でも……」


 「だ め で す ! ほら、こんなに腕も細くて……アリアちゃん、普段ちゃんとご飯は食べてらっしゃいますか?」


 メアがアリアの華奢な手を取って、その暖かな手のひらで、冷えたアリアの両手を包んだ。


 「…………」


 「だめですよ……それに心なしか顔色もよろしくないようですし、もしかして昨夜はちゃんとお休みになれなかったのでは――――」


 そしてメアの右手がアリアのまだ血の通い切れていない頬を撫でたとき、メアは自分がやりすぎていたことに気づいて、慌ててその手を引っ込めた。


 「あ……ごめんなさい、私……舞い上がってしまって……ごめんなさい、お嫌でしたよね……?」


 メアはばつが悪そうに顔を俯かせて、上目遣いでアリアを見つめた。 


 「…………」


 「その……ごめんなさい。やっぱり私――――」


 「いや、違うんだよメアちゃん」


 メアの一連のコンボにアリアは少しだけ冷静さを欠いていた。


 「私、ぼおってなっちゃって……漫画でしょ?これ……?」


 「?」


 しかしすぐにアリアは自分がおかしなことを言っていることに気付いた。


 「うん、ごめんね、そういうわけじゃないの。心配させてごめんね。もちろんそういう事ならありがたくいただくよ。ありがとね、メアちゃん」


 「わあ……!ありがとうございます!」


 なぜ作って貰う側がお礼を言われているのか、何か間違いがあるような気がしたけど、アリアはメアにこれ以上悲しい顔をさせたくない一心で、それ以上深く考えることをやめた。


 「今日は私の当番なんです。もしかしたらアリアちゃんのお口に合わないかもしれませんので、もしそうだったら遠慮なくおっしゃってくださいね」


 「そんな、メアちゃんが作ってくれたものなら、なんでも美味しいに決まってるよ」


 「いえ、今日は万が一に備えて様々なパターンの朝食をご用意いたしましたので、大抵の好みは網羅出来ていると思います!」


 「――――様々なパターン……?」


 「ええ!こちらの“世界の朝食50選”および“エルフご当地飯~朝食編~”より全ての料理を完全再現させていただきました!!この中ならきっとアリアちゃん好みの朝食が食べられると思いますよ!!」


 「…………」


 しかし、アリアはメアの発言にどこか違和感を覚えた。嫌な予感がする。もし、メアの言うことをそのまま受け取るとすれば、昨夜の晩餐で賑わったあの長テーブルは大小様々な食器で埋め尽くされているということになる。


 「えっと……この中から選んで欲しいってことだよね……えー?……迷っちゃうな……」


 だからきっと間違いなんだ。お嬢様キャラが主人公に手料理を食べてほしくて、「お弁当作りすぎちゃった」とか言って、大量に持ってくる、あれ。あれの上位互換――――そんなことが現実に起こっていいはずない。


 「いえ!選ぶ必要なんてありませんよ。もし気になるものがあれば全部手を付けていただければ――――」


 ……だめみたいですね。


 「ちょっと待って!――――ちょっと待ってね……えーと……全部って何?もしかしてこの本に載ってるやつ全部作った……って訳じゃないよね……そんなはずないよね……だって物理的に――――」


 「いえ……?もちろん全部作らせていただきましたよ?」

 

 「――――えっと……メアちゃん昨日寝れた?」


 「はい、しっかりと8時間摂らせていただきました!だめですよ、メアさん。睡眠不足はお肌の天敵なんですから!」


 「…………」


 なんか時空歪んでね……?という至極まっとうな突っ込みすら出てこないほどアリアはメアの規格外な能力を目の当たりにして、放心し、言葉を失っていた。

 果たして大抵の好みを網羅しているほどの朝食の量とはいかほどのものなのか。空想を超えた超現実を前にしたアリアは、逆に現実的な細かいあれこれが気になって、むしろ冷静になっていた。


 「…………ありがとう。メアちゃん。申し訳ないけど今日はとてもお腹が空いてるからいろんな朝食を食べさせてもらえるかな?メアちゃんの作ったものいろいろ食べたいし……」


 「わあ……!そうなんですか!?それならたくさん作った甲斐があります!――――」


 アリアがこの玲瓏館で初めて請け負った仕事は、世界一働き者のメイドが期せずして発生させてしまった、大量の食料在庫の処理からだった。


 ※メアが作った大量の朝食はスタッフが全ておいしくいただきました。

  フードロス削減。玲瓏館では環境を意識した経営に取り組んでおります。

 

 

 

 ――――――――


 ――――


 ――…………


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