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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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第2話 メイリが作る玲瓏館の紅茶は美味い

 「私、この店のカップル限定メニューって言葉を見るだけで、もう辛くなるんだよね」


 「ええ゛~…………お察しします………」


 「何それ」


 「一昔前の人気ドラマですよ」


 「それは知ってるよ!!私が言いたいのは、あなたがどういうメンタルしてればそんな事出来るのかってこと!!………って言うかそもそもそれ全っ然似てないよ!!せめて表情だけは寄せる努力はして?なんでその物まねしながら真顔なの………」


 「ハンマーカンマー」


 「あーーもう!いい!!そんな事より!――――……もう一度聞くけど、エル君は私の事、うつ病患者みたいに思ってるって事で良いんだよね………?」


 「まあ………端的に言えば、そういうことになりますね………」


 勇者ミーシャは玲瓏館のメイド長であるメイリのその言葉を受けて、カフェ「サギュリティア」のメニュー看板の前で頭を抱えて蹲った。


 「あー………やり直したい………全てを………」


 「魔王を倒した後の凱旋スピーチで『全ての過ちを無かったことには出来ない、してはいけない………!』と言っていた人とは思えない発言ですね」


 「もう………なんで私の発言は逐一記録されてるの………」


 「良いじゃないですか、私はあの日まであなたの事を完璧超人の、スーパーヒーローだと思って生きてきたんですからね」


 「それも本当はいやなの!!表に出てる大体の発言は誰かが書いた台本だし、そのイメージでみんな私の事見てくるから、どこ行くにも気が抜けないし…………」


 「そうですか……なら、いっそのこと、あの音声を世間にばらまいてあげましょうか?全てから解放されてとても良い気持ちになれますよ?」


 「あーー!!やめてーー!!ていうか、もうばらまかれてるじゃん!!どうしてメイリさんもその音声持ってるの!?」


 「情報提供者である、金髪の、胡散臭い、ゲロ以下の臭いがぷんぷんする男の為にそれは明かせません」


 「知ってた…………ていうか例えクエリ君がゲロ以下の、生きる価値のない、人類史上最低な男だったとしても、せっかくの情報提供者をそんな風に悪く言うのはあまり良くないんじゃないかな……?」


 「良くその言い草で私に説教できますね」


 「私は純度百パーセントで被害者だからね」


 「ええ゛~………お察しします………」


 「もうそれは良いよ…………全然似てないし、全然面白くないよ?やるならもっと全力でやって?自分の人生捨てる気でやって?じゃないと全然面白くないよ?」


 「それはそうと…………」


 「あーもうやだこの人…………頭痛い…………」


 「え?大丈夫ですか?もしよろしければ、お薬買ってきて差し上げましょうか」


 「違うよ、そういうことじゃないのわかってるよね?……ていうか、そもそも買いに行けるわけないでしょ?メイリさんたちは今本来は、謹慎期間中なんだから、勝手に動かれたら怒られるのは私の方なんだよ……?」


 「そうですか……では僭越ながらここは私の膝枕で…………」


 「あーー!もう!話が進まない!!さっさと次!!次行って!!」


 「――――それはそうと…………」


 「うん」


 「私としては、そこまで状況は悪くないと思うんです。エルハルト様があそこまで気に掛ける方はあなたの他に居ませんから…………」


 「ええ……?急に真面目……?――――そう、なのかな…………ていうかメイリさんはそれで良いの?」


 「何がですか?」


 「何がって…………もう……今更そういうこと言うの、ずるいと思う……」


 「私はエルハルト様のメイドです。主の幸せを自らの幸せの最もとする…………」


 「じゃあ、良いの?今から私が昨日のエル君との念話でちょっといい雰囲気になった話ししても――――って、いたーー」


 勇者ミーシャは突然立ち上がったメイリの膝から転げ落ちて、石畳の上にしたたかに頭を叩きつけた――――ていうか結局膝枕してもらっとんのかい。さすがに店の前でそれは不審者過ぎる……!


 「…………」


 「やっぱ…………そうじゃん……」

 

 「――――――……ミーシャさんは…………それでいいんですか……?」


 「何が?」


 「……私に、もしもそういう気持ちがあって、そういう気持ちがありながら、私がエルハルト様の近くにいる事……」


 「……ふーん、そういうことね……」


 「…………」

 

 メイリはミーシャからの暗い視線に思わず目線を逸らした。


 「……正直に言うとね、すっごい、やだ」


 「――――そう……ですよね……」


 「エル君が他の女の子と仲良くしてるのを見ているのが辛い、想像するだけでもいや……ましてやメイリさんなんか……」


 「…………」


 「でも、そう思っちゃう自分の方がもっと嫌……だって私とエル君は何でもないんだもん……エル君にとっては私よりメイリさんの方がずっと大切……私、何となくわかるの……だから何もしない、何も出来ない私が悪いの。メイリさんに私が何か言える訳ない。全部私のせい。私のせいでメイリさんが自分の心に素直になれない方が私は嫌……だから――――」


 そしてミーシャは立ち上がって、叩きつけて赤くはれたおでこのまま、しっかりとメイリを正面に捉えた。


 「…………」


 「だから、そんな顔しないで、メイリさん……私、あなたのこと、結構好きなの。あなたの色が玲瓏館にぴったりだから……」


 「――――――……」


 「――――…………」


 「――――……ミーシャさん…………」


 「――――うん……」



 「――――――……もしかしてミーシャさんってドMですか…………?」


 「ちゃうわい!!!!どうしてそうなるのーー!!!」



 勇者ミーシャはメイリの肩に、一般人だったら骨が粉々に砕けていそうなパンチをお見舞いした。


 「痛い…………すみません……なんか自ら進んで辛い思いをしに行ってるような気がして…………あと、ちなみに私はドMらしいです。自覚症状はありませんが、創造主様(お母様)がそうおっしゃっていました」


 「聞いてないよ!?ていうかやめて!!そんなの聞きたくない!!私だってあなたの事、強くてクールで完璧で、なんかいいなって思ってたのに!!」


 「…………!!…………そんな……まさか、ミーシャさんからそんな風に思ってもらえてたなんて…………私はてっきり嫌われていると…………」


 「いや、驚きすぎでしょ、嫌いになんてなるわけないじゃん!!…………そもそもそんなに話したことなかったし…………ていうか、私の方こそ……その……あまり良く思われていないかと……」


 「そんな訳ないですよ――――……あ……でも、私、今まであなたについて、少し勘違いをしていたかもしれません……私……エルハルト様に言われて、あなたと話さなくてはならないってなった時、ちょっと不安だったんです。あの人は私とは住む世界が違うからって…………でも、こうして直接話して、あなたの事を少しだけ知って、そうしたら、ああ、これなら仲良くなれるかもって思えたんです――――……なんかミーシャさんって、ちょっとエルハルト様と雰囲気が似てるんですよね。なんていうか、いつも一生懸命なところとか……」


 「――――メイリさん……」


 「あと、いじりがいがありそうなところとか」


 「やっぱそういうことじゃん!!好きな人にはいじわるしちゃう小学生男子メンタル…………!!」


 「好きな人…………やっぱミーシャさんって自己肯定感高いですね」


 「なんでそうなるの!?――――ていうか……え?メイリさん顔真っ赤!!お互い受け入れよ?好きって言われたら素直に受け入れよ?」


 「う、うるさいですね…………私の肌テクスチャは元々これぐらいの色相ですから、顔真っ赤になんてなってないですから」


 ミーシャは顔を真っ赤にして照れるメイリに、優しく微笑みかけた。


 「もう、照れなくていいよ…………私、エル君もメイリさんも好き――好きだから、じめじめしたお天気にしたくないの。そこに勝負があったら、青空の下で正々堂々、精一杯戦って、勝つときも負けるときも、悔いは残らないようにしたいの」


 「ふふ……さすが勇者ミーシャ……闇落ちなんて夢のまた夢ですね」


 「うん、そういうこと!!…………あーなんだかすっきりした!!だから、メイリさんも私に気にせず、思いっきりやっちゃって!!これは私とあなたの二人だけの勝負なんだから!!」


 「ええ……ありがとうございます。あなたのおかげで少しだけ、前を向けるような気がします――――」


 「うんうん、それでいいんだよ!」


 「それに……私たちの関係を空模様で例えるなんて…………さすがミーシャさん。この調子ならエルハルト様のご心配も杞憂に終わるかもしれませんね」


 「?」


 「エルハルト様はあの日、ミーシャさんが天気の事しか喋れなくなったと、大変心配しておいででした。しかし、ここまでお天気デッキを使いこなしているのならば、むしろ天気の話題だけで会話を乗り切ることが出来る――――」


 「…………!!!…………」


 「だからミーシャさん、これからも――――って、ああ゛、やめて、離して、首が、」


 勇者ミーシャはその溢れんばかりの力で、メイリの胸倉を掴んでぐわんぐわん揺らした。


 「あーー!!!忘れさせて!!!無かったことにして!!!なんかいい感じに!!あの日の事だけエル君の記憶から無くして!!!メイリさんならできるでしょ!?ずっとエル君についてる有能メイドならで出来るでしょ!!!」


 「何言ってるんですか、そんな事出来るわけ――――」


 「あーーもうーーーやり直したい!!!ねえ!!メイリさん!!!プールの飛び込み台からなんか叫びながら飛び降りればいけるかな!!?」


 「いけるわけないじゃないですか――――ていうか離して……HPが……」


 普段減ることの無いメイリのHPはこの数日余りで同じ人物に二度も大きく減らされた。果たして、彼女は二度目の大結晶リスポ送りを回避することが出来るのか。彼女たちの勝負は今日も青空の下で行われている。


 「あーーもうやだーーー!!」


 「私も……もう――――あぅ…………」



 ――――――……


 ――――……


 ――……


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