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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-48

 アンリはしばし息を止めて、メアの神秘と美、それと愛らしさを存分に表現したその端正な顔のつくりをまじまじと見つめながら、彼女の病名について散々ありとあらゆる憶測を巡らせた。

 

 「……」


 が、最終的には、


 「それは……なんで……?」


 と頭の足りない少女のような発言をして、その芸術的な比率に真っ向から問いかける羽目になってしまった。


 何故なら、彼らの身体的な特性を加味すれば、本来そう言った病名の症状は起こりえないはずだからである。

 

 彼らについて聞きかじった断片的な情報しか知り得ないアンリであっても、彼らの身体が超自然的な治癒力を兼ね備えていることを知っていた。


 「それが……私にもわからないんです」


 だが、意外なことに当の本人ですらその本質は知り得ないようだった。


 「そうなの……? でも、風邪とかには普通に掛かるんでしょ? これもその一種とかじゃないの?」


 「たぶん違うと思います。アンリさんもご存じのように私たちが罹る病気は、所謂バッドステータスと言われる、ある特定の法則性に則った一時的な状態異常と考えられています。だから、罹る病気の種類も、罹患経路も、非常に限られたものであり、このような、原因特定も困難なあいまいな症状は本来出るはずが無いんです」


 そして、驚いたことに一旦は医者の正当性を認めた彼女も、結局のところはその診断に不満を持っていたようだ。 


 「……」


 「えっと……もちろんテオスさんの診断にケチを付けているわけでは無いのですが……わたしもその……少し気になってしまいまして――」 


 だが、アンリはそうして自らの不満を語るメアの姿を、少し意外に感じながらも、しかし彼女の所感も至極妥当と思えた。


 「うん、たとえ医者が正しいとわかっていても、自分の体のことだもんね。気になるよね」


 「はい。だからごめんなさい。先ほどアンリさんが私に『何か不当な扱いを受けていないか』とおっしゃった時に私には心当たりがあったんです。でも……」


 (なるほど……)


 彼女の主治医テオス・プラストスに関しては巷では色々な噂がある。

 

 曰く、某研究所において非合法な人体実験を行っていただとか、曰く、医薬品開発を通じていつの日か人類を意のままに支配する計画を立てているだとか――

 

 だけど――


 「テオスさんを悪く言いたくない?」


 「ええ……テオスさんにはとても良くしてもらってますから」


 しかし、厳然たる事実として、彼は人類史における輝かしい実績を、その優れた植生学の見地から築いている。


 彼によって救われた命はまさに数えきれないほどあり、一部では彼を神格化する者もあらわれるほどだ。


 「そっか、テオスさんって良い人なんだね」


 アンリは無難に、彼をそう評すことに決めた。


 「はい……!」


 アンリのその日和見主義的な態度に、背負っていた若干の重しが外れたのか、メアは少し元気になって答えた。


 「態度は無愛想で、見た目も何か不健康そうで、確かにお世辞にも良い人そうには見えませんが、実際に話してみるととても良い人だということがわかっていただけると思います! 特に植物さんたちへの態度はいつもいたって真面目で、誠実で、その愛が植物さんたちを通してこちらに伝わってくるほどなんですよ!」


 「はは、そうなんだ……」


 しかしいずれにしても、それらの情報は今回の場合においては、何の役にも立つことはなさそうだった。


 少なくとも彼がこの館の中でそれなりの人間関係を築いている現状で、それらの薄い、印象だけの情報が何かの役に立つとは思えなかった。


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