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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-47

 だが――


 「……えっと、違ったかな?」


 「――はい。そういったことは全然ないと思います」


 どうやら彼女の反応を見るに、やはりアンリの憶測は見当違いではあったようだ。


 メアは嘘や偽りを感じさせない、有とも無とも言えない表情で言った。


 「本当……?」


 彼女の至極真面目な表情に、アンリは少し困惑したように言った。

 少なくとも嘘をついているような後ろめたさは無かった。


 「はい」


  だがもちろん、それがわかったところで、彼女の真理を知れるはずがなかった。


 「……そうだよね」


 手持無沙汰になったアンリが言った。


 そもそも、二言三言話したところで、彼らについて一般的な知識や、事前の情報でしか知り得ないアンリが、そうやすやすと全てを知れるほど、彼らの世界は単純ではないのかもしれない。


 彼らにも人と変わらぬ人間関係の機微があるのだ。


 そのことを実際に会話を交わすうちに、徐々に彼女は理解しつつあった。


 「えーと……」


 「ええ。少なくともテオスさんがそう簡単に誤った診断を下すことはないと思いますから」


 「テオスさん……テオスさんって、あの錬金術の?」


 「はい。あの方は医者として、相当に高い自尊心と責任感をもっておられる方です。ですので、誰かの指図で診断の正誤を捻じ曲げたりはしないはずです」


 「……なら本当に病気ってこと?」


 「はい。一昨日からずっと部屋に閉じこもって寝てましたから」


 「そう……」


 つまり――

 

 「……」


 「……――――」

 

 「じゃ、じゃあ、寝てなきゃじゃん……!! ご、ごめんね! 道案内させたり、紅茶作らせたりとかしちゃって! 私、てっきり――」


 「……いえ、いいんです。私が悪いんです。医者の診断に逆らって、こんなところでふらふらしてる私が悪いんです」


 「う、うん。そうだね。え? というか、身体の方は大丈夫なの?」


 「はい、今はもう大丈夫だと思います。症状も無いですし、明日には自由に外に出てもいいという診断もいただいておりますので」


 「ああ、そうなんだ。だったら大丈夫、なのかな? で、でも一応聞いておきたいんだけど、それってもしかして重い病気が原因だったりする?」


 アンリは自らの失態に大騒ぎしながら聞いた。


 「いえ、診断は単なる『過労』ということでしたので、そういったことはないかと思います」


 「そっかー、それでも一応はちゃんと寝てなきゃ――って……ん?」


 だがそのあまりにもくたびれた辛気臭い病名に、アンリは思わず自分の耳を疑った。


 「過労? 風邪とかじゃなくて?」


 「ええ。過労です」

 

 「そう……」


 やはり彼らの生活にはアンリにも窺い知れぬ、繊細な機微があるようだった。


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