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 主は言葉を詰まらせてしまったメイドを辛抱強く待った。そして彼女の口からはこれ以上待っても語られない事を察すると――――


 「ぷっ…………はっはっは、はは…………お前やっぱりミーシャの事相当気に入ってるよな」


 と主はメイドの思い詰めたような表情を吹き飛ばす様に、高らかに笑い声を上げた。

 

 「…………え?いや…………私はそんなつもりで…………」

 

 「いや、照れなくていい…………ああ、僕も同意見だ。あいつは素晴らしいやつだ」


 「――――そう、ですよね…………」


 「ああ、そうだ。だから僕は今日後悔した。僕はあいつがあんなに思い詰めていたことを知らなかったし、その一端が僕にあることにこれまでとんと気が付かなかった」


 「――――そう、ですか…………なら……」


 「――――ああ」


 メイリは次に訪れるだろう、致命的な一言に人知れず、拳を握りしめた。


 「だから――――」


 「…………」




 「暇な時でいい。お前があいつに付き合ってやってくれないか?」




 「――――へ…………?」


 大結晶の灯りが淡く灯る暗がりに、世にも珍しい、メイリの気の抜けた声が響いた。


 「――――ああ……すまない。職務規定外の頼みであるとは僕も重々承知している…………だが、やはり僕はお前以外この責務を全うできそうな者を知らない。さっきのお前のミーシャに対する熱い想いを聞いて確信した」


 「…………」


 「ああ、わかってる。本来は僕が何とかしなくてはいけない事だ――――僕はもっと早く気付くべきだったんだ。僕は損得勘定だけで、僕とミーシャの関係をこれで良しとしていた。だがあいつは勇者であり、人の心がわかるやつだ。当然お互いに利があるとしても、自らの保身を他人に委ね、それがあまつさえその相手を悪者に仕立て上げることによって為されるなど、それが最も効果的だったとしても、あいつにとっては許されない事だろう。やはり奴は心の内では納得してはいなかったのだろうな」


 「ええ…………それはそうだと思いますが……だけど今更――」


 「ああ、僕も、今更か?と思ったよ。なんせこれまでずっとそれでやってきてたのだからな…………だが僕はあいつを舐めてた。そしてわからされた。あいつは勇者だ。あいつはどんな困難な問題であろうと、解決してしまう強い力と意思がある――――今日、あいつと話して良くわかったよ……あいつはずっと何とかしようと苦しんでたんだよ。僕の為に……僕は気付いてやるべきだった……まさか彼女が……昔は常に笑顔を絶やさず、話す話題も尽きないような、そんな、神に愛された天性の陽キャだった彼女が、今はお天気の話題しか出てこないほどに罪悪感に埋め尽くされているなんて…………なあ、メイリ、もう一度頼む……僕の代わりに彼女を救ってやって欲しい――――僕じゃだめなんだ……僕があいつの前に居ると、どうも彼女は正常ではいられなくなってしまうみたいなんだ」


 「…………」


 「きっとあいつも……メイリ、君を通して、僕がどれほどこの日々を大切に思っているかを彼女に理解してもらえば、きっと誤解は無くなる、わかりあうことが出来る――――そうだと思わないか……?」


 「…………」


 「やっぱりだめか……?確かに立場上困難は多い。恐らく根本的な問題の解消は難しいだろう……だが、お前もあいつのことをそこまで想っているのなら、きっと悪くなることはないと信じてる。悩みを分かち合い、共に成長す――――」


 「――――ました」


 「ることによって、少しでも――――え?何だって?」


 「わかったといっているでしょう。このブラックダンジョンマスター」


 「え?なんかそれちょっとかっこいいな」


 「では腐れ職権乱用上司」


 「あ、ごめん。普通にごめん。手当は僕のポケットマネーから出すから……さすがに今の時代に交際費なんて名目で経費は落ちんだろ?」


 「別に経費でいけますよ」


 「え?ああ、じゃあ」


 「いりません。私、接待とかそういうの嫌いですから。たとえ仕事だとしても、仲良くする人は自分で選びたいので」


 「え……なんかかっこいい……」


 「私個人としても彼女の事は気になっていましたし、良い機会だと思っただけです」


 「そ、そうか……じゃあ、すまんが頼む。だけど本当、無理はしなくていいからな。人それぞれ相性があるからな……」


 「――――少なくとも、好みは似通ってるとは思いますよ」


 「そ、そうか!さすが詳しいな……!というかお前ら元々付き合いがあったりするのか?」


 「いえ、全く。仕事以外では特に」


 「まあ、そうだよな。というかお前がメア以外と遊びに行くところなんて見たことないからな」


 「っ…………ハラスメントで訴えますよ」


 「ああ!!ごめんごめん!!」


 「そもそも……!!エルハルト様だって、遊びに行く友達なんていないじゃないですか」


 「い、いるわい…………!!その…………何人かは…………」


 「大体…………!エルハルト様はもう少し人の心の機微に詳しくなった方が良いかと存じます!そんなんだから……その―――」


 「わ、わかっとるわい!!そもそも僕たちの立場でそんなほいほい友達が出来るわけないだろ!!お前自分の言ってることをちゃんと理解しているのか?お前それ全部ブーメランだぞ!!」


 「ぐぬぬ…………!」


 プライベートを犠牲にした、仕事一筋うん百年の二人の悲しき争いに勝者は無く、二人の間にまた重苦しい沈黙が流れた。だけど――――


 「あ、エルハルト様――――」


 「――――ん、なんだ?」


 メイリは重苦しい空気を切り裂くように、二人の間にあった溝を越えて、エルハルトの元へ向かう。


 「ど、どうした?すまないさっきの事は――――」


 メイリは胸辺りにあるエルハルトの顔を覗き込んで――――


 「…………!――――ああ、すまない」


 「どういたしまして」


 メイリは懐から出したハンカチで、エルハルトの頬を拭った。

 メイドはいついかなる時も主の身だしなみを整えられるように、常にそばについてなくてはならない。

 

 「フォトオプの時もこれが出来んのかえ」


 「心苦しい限りですが、それも仕事ですので」


 メイリは勇者ではなくメイドだ。だからそれ以上にはなれないかもしれない。


 (でも、今だけは…………)


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