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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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 結局は彼らに自由な時間を与えてしまったのは事実である。


 エルハルトは念のため、手元の端末を操作して館内に申し訳程度に設置した目玉蝙蝠を頼ってみた。

 だが、当然何の手掛かりも得ることは出来なかった。

 彼らにあらかじめ支給されるペンダントには、強力な魔力耐性が付与されている。

 それらは魔物に対する強烈なジャミング波となって、目玉蝙蝠による盗み見を阻害する。


 またそれらの影響下にない、電子機器における監視も、ダンジョン法によって規制されており、それらの摘発権限やそれを可能とする装置を調査団も有しているために、それらの設置はむしろ首を絞めることになりかねない。


 「はあ、本当にややこしい世界だ。僕たちはこんなにも譲歩しているというのに、一向に信頼は得られない」


 これらの法律は表向きは遺跡保護の観点で施行されたものであるが、結局はこういった場面でネームド側が不利を背負うように仕向けられたものでもあることは言うまでもない。


 そもそもペンダントの存在がある以上、彼らは本来はやりたい放題であるはずなのだ。

 だが、それでも彼らはそれらがありつつも生来の恐れを捨てられない。


 何故なら、無限に湧き出でるものに対して、人はそれらを数え上げることができないからだ。

 不死の運命にあるものが、自ら武器を差し出そうと、身を投げ入れようと、それらは何の対価にもなりはしない。


 「まあ、仕方ないか。永遠に数え上げることのない罪と罰が僕たちの宿命なのだから」


 エルハルトはどうにもならない事実をかっこつけた風で誤魔化しながら、自らもまた内に抱いた恐れから目を逸らした。


 世の理において永久不滅の完全なシステムが存在し得ないのであれば、結局はそれらの解決策は全ての事柄を人が数え上げられるようにする以外にないのだ。


 エルハルトの脳裏に先日のテオスとの会話がよぎった。


 ――ふむ……そうだな……少なくとも俺が想像していた安らかな死とは大分かけ離れていたとは思う。具体的には、明滅と暗転が永遠と繰り返され、平衡感覚がなくなり、天と地がひっきりなしに入れ替わって、非常に忙しなく――


 「うええ、僕、三半規管弱いんだよな……」


 思い出した箇所が少しばかり悪かったようだ。

 回想を中断して、目の前にあった階段の手すりを掴む。

 

 「はあ、頼むぞメイリ……もう少しだけ僕は――」


 だがエルハルトはその手すりが現実のものかどうか妙に気になってしまった。


 (僕は……僕は本当は何を求めているんだろう)

 

 恐れの源泉はどこだ?


 おどろおどろしい疑似的な死か?

 日常の崩壊か?

 創造主(母)から受け継いだ遺産を失うことか?


 (違う)


 エルハルトにはその答えに当てがある気がした。

 今日得たひらめきがその源流にある。


 (だけど、だめだ)


 今はそれを考えること、それ自体が最も恐ろしいことだった。

 

 エルハルトは考えるのを止めた。

 手すりは本物だった。

 だけど階段の先の闇だけが、視覚を遮る不確定の存在として、階下に横たわっていた。



 ――――……


 ――……

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