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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-33

 「――申し訳ございません」


 エルハルトとともに彼女の後姿を見送ったシュネデールが言った。


 「あなたたちもご存じのように彼女にはダンジョンの遺跡に記された暗号の解読を任せています。しかし、やはり暗号解読というものは常人には少し荷が重い。もちろん彼女は才女と持て囃されている新進気鋭の数学者で、その演算能力は常人とはまさに桁が違う存在ではあります。ですが、それでも人の子である以上、その精神的な負荷は平等に彼女を苦しめているだろうことは間違いありません」


 暗号解読における人に掛かる精神的な負荷は世に知られている通りである。

 複雑な数字や記号、文字の羅列、あらゆるミスリード、それらの”ひっかけ”による繰り返しで生じる摩耗。孤独な対話。期限による周りからの重圧。

 

 それら様々な要因が彼女ら数学者を苦しめ、その結果往々にして、このような遺跡調査による彼女らの仕事は、残酷なことに消耗品と揶揄されることもあるほど、非常に過酷なものとなっていた。


 エルハルトは言った。


 「ああ、もちろんそのことは承知している。故にこれらの責任は管理の行き届かなかった僕たちに比重がある。申し訳ない。今一度謝罪をさせていただこう」


 「ええ、お互いに健やかに過ごせるよう、思いやりを忘れぬことが肝要でしょう」


 そういってシュネデールは最後にちらりとメイリの方に視線を投げかけた。 


 メイリは相変わらずのポーカーフェイスで、その視線を小さな会釈とともに無言で受け止めたが、やはり長年彼女と連れ添っているエルハルトには彼女の沈み気味な心持ちが手に取るようにわかった。


 「さあ、引き続きタペストリーの深遠に潜り込み、その謎に迫ることとしましょう」


 シュネデールが鉄面皮ともとれるメイドの表情に、どのような収穫を得たかは定かではなかったが、彼は懲りずにその追及を続けるようだった。


 「……」


 その様子にエルハルトは内心とてももどかしい気持ちを抱えることとなった。


 そう、これは結局は争いなのである。

 互いを思いやると言いつつも、この場に居合わせた全ての者たちは、言動をその構造に縛られるのだ。


 そういった意味ではしかし、メイリによる妨害もある程度は正当な手段といえ、さらにはそれに続く、シュネデールの反発も正当といえた。


 「して、そこの美しいメイドさん、あなたはこの傑作についてどのような感想をお持ちになるのかな」


 問われたメイリは一瞬、ちらりと主人の方を見て、その意思を伺ったが、彼の頷きを認めると彼女はその恐らく嘘偽りの無い素朴な感想を語った。


 「私は、正直に申しまして、この絵があまり好きではありません」

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