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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-27

 深紅のタペストリーには二人の人間と二頭の獣が主に描かれている。


 一人はきらびやかな宝石と深紅のドレスを纏う高貴な女性、もう一人はその侍女。

 一頭は獅子ライオンで、もう一頭は――


 「一角獣ユニコーン……何故でしょう。この獣からはほかの動物からは感じない神性を多分に感じますね。確かに珍しい種ですが、所詮は馬に角が生えただけの獣。ドラゴンほどの圧倒的な力も無いのに、何故人々はこの一角獣に引き付けられるのでしょうか」


 「ただ珍しくて綺麗だからだろ。人間が信仰する動機なんてそれだけで十分だ」


 「確かにそうですね……」


 しかし、これらの遺物から真意を汲み取ることは並大抵のことではない。

 この世界はナンセンスに溢れている。

 エルハルトは創造主(彼女)の性格から、それらもまた真実であることを知っていた。


 シュネデールは再び口を閉じると、また贋作を見つめる作業に戻った。


 彼もまた、その長年の考古学の知見からそれらの真実を知り得ているはずだった。

 だが、彼は一心不乱にその贋作を見つめた。

 果たして彼はその行為にどれほどの価値を見出しているのだろうか。


 タペストリーの中では一角獣と獅子が貴婦人を見つめながら、背後に映る蒼い天幕の裾を持って彼女を出迎えている、もしくは天幕へと誘っている。


 「我が唯一の望みに――」


 シュネデールが蒼い天幕に刻まれたその古い言葉を読み上げた。


 「今では使われていない言語です。この世界にはかつて無数の言語が存在していたと考えられています。しかしそれらの言語と、現在使われている共通語コイネーの間にはほとんど言語学上のつながりがない。語句も、文法も何もかもが違う。果たしてそんなことがあり得るでしょうか? それらの言語が失われた大変動の間に、この世界には何が起こったのでしょうか。降って湧いたように出現した共通語は一体どのような過程で成立したのでしょうか」


 「……確かに不思議だな。僕たちの間に言葉の壁はない。しかし、これほどの言語の痕跡がこの世に存在している事実からは、以前の世界ではそれぞれが違う言語を話していたと考えるほうが自然だ」


 「ええ、しかしその疑問に答えられる者はいない。非連続的な空間の歪みが視覚的に真実を私たちの視線から遠ざけている……まるであなたたちの存在と同じだ」


 「……」


 シュネデールがエルハルトの沈黙をどう捉えたのかは定かではないが、しかし、いずれにしても今の彼の関心は、見えざる存在の中には無いようだった。


 「まあ、この話はもういいでしょう。人が人である限りそれは誰にもわかるはずはない。今はただ、これらの解読を成し遂げた先人たちに惜しみない称賛を投げかけるだけでいい……私たちはそうして文明を発展させてきたのです」


 つまり意識的な選別が必要であるということだろう。

 彼はそれらの線引きを長年の経験と先人の知恵から受け継ぎ、忠実に実行する心意気があるようだった。

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