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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-23

 「こほん……ていうか、大結晶も古代の遺跡じゃないのか? だとしたら、大結晶も新物質の影響を受けて壊れちゃうんじゃないのか」


 「ふむ……まあ、普通はそうなるだろうが、ならない」


 「なんで?」


 「わからん」


 「ええ……?」


 だが、どうやら彼にもやはりまだ未知の事柄は存在するようだった。


 「少なくとも、実際に玲瓏館の大結晶を用いた幾度かの実験においても、大結晶が損傷したりだとか機能不全に陥った事例は一度も無かった。そして、そういった状況であるのにも関わらず、新物質の作用も無効化はされておらず、結果だけ言うとネームドの身体は蘇生と霧散を繰り返した」


 「そう、なのか……本当、いろいろと謎すぎるな……」


 そしてそろそろ、我慢の限界を迎えたエルハルトが声を大にして言った。


 「って――実際に試したのかよ!? もし本当に生き返れなくなっちゃったらどうするつもりだったんだよ! 本当、勘弁してくれよ。次からはそんな危ない実験絶対やらせないからな」


 「……了解した」


 「うむ、それでよろしい」


 だが、そうは言いつつも、実際に差し迫った脅威については、その実験結果は共有するべきではあった。


 色々ありすぎて、すっかり冷めきってしまったコーヒーをお互いに啜りあってから、エルハルトは聞いた。


 「で……実際どうだったんだ……? 蘇生と霧散を繰り返した気分は」


 「ふむ……そうだな……少なくとも俺が想像していた安らかな死とは大分かけ離れていたとは思う。具体的には、明滅と暗転が永遠と繰り返され、平衡感覚がなくなり、天と地がひっきりなしに入れ替わって、非常に忙しなく――」


 「いや、すまん。そこらへんでいいぞ。大変だったな。もう二度とやるんじゃねえぞ」


 エルハルトは舌に残ったコーヒーの苦みが途端に増幅されたように感じた。


 「……了解した」


 テオスは相変わらず淡々とした口調で繰り返した。


 エルハルトはもう一度コーヒーを啜った。


 「でも……お前がどうこうしなくても、いずれは僕も体験することになるかもしれないな」


 だが、エルハルトは最終的にはそれらの苦みを意識して味わうことを選択した。


 「……そうだろうな。だが、少なくとも今はその心配をする必要はない。何故なら、部屋一つを満たすほどの新物質を量産することは現時点では非常に困難だからだ。新物質はその効能から察せられる通り、残留性が低い。大気中に溶け出した新物質は非常に早い速度で分解されるため、ネームドを分解し続けるほどの濃度を維持するには非常に大量の新物質が必要であり、また気体状態以外では効果の発現が芳しくないために、これ以外の方法もあまり現実的ではない」


 「そ、そうか、よかったぁ……」


 エルハルトは彼の思ったよりも良好な差配の予想に、今までため込んでいた不安を吐き出すように言った。


 つまりは現状は新薬を脅威と捉える必要は無いということだ。


 だが、テオスは続けた。


「故に現在の生産量ではそれらの憂慮が現実に起こりうることは実質的には不可能だといえる。だが――」


 彼は忘れていた。

 これらの話題は差し迫った現実問題の前口上にしか過ぎないことを。

  

 「現在進行形でその生産量の問題を人類は何とかしようとしている――」


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