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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-21

 「具体的には被曝総量が4000ミリアスフォベルトを超えたあたりで、ネームドは人体を維持することが出来ずに霧散する」


 「……? それってどうなんだ?」


 「非常に容易に達成できる数値であると思われる。例えば、スプレー缶のガス噴射でも約十秒ほどの噴霧で達成できる」


 そして、その脅威はエルハルトに具体的なビジョンとして脳内に再生された。


 「え? マジ? 僕たちそこら辺にいる害虫と同じレベルじゃん。ゴキブリレベルじゃん」


 エルハルトは急に差し迫った脅威に、顔を青くして言った。


 そんな彼の間の抜けた物言いにテオスは少し微妙な顔をして答えた。


 「まあ……そうなるな。だが、これはあくまでも俺自身の身体をサンプルとした結果だ。そのため、ほかの個体においてはその総量に誤差が生まれる可能性があることは一応考えられる」


 「そうか……」


 もしかしたら彼は、そんなエルハルトを落ち着かせるためにそう答えたのかもしれないが、その答えはさらに彼を不安にさせる要素しか含んでいなかった。

 エルハルトは危うく聞き逃しかけた自分を戒めるように、声のトーンを一つ釣り上げて言った。


 「って、お前もしかして自分の身体を実験材料にしたのか!?」


 「……? そうだが? 他に手近なサンプルがあるか? それともお前自身が被検体になってくれるのか? それは有難い限りではあるが、ネームドであっても研究者本人以外の身体を実験体にするのはそれなりに制約もあって、手続きの書類もたくさん必要でな――」


 これが彼なりの優しさなのだろうか。 

 

 「いやいや、ならない! ならないから!! ていうかそういうことじゃないから。お前、もし自分の身に何か取り返しのつかないことがあったらどうするつもりだったんだよ」


 「……――――」


 そして結局は楽曲に合わせて冷たい空気が舞い降りるのだ。


 「お前、もしかして……」


 エルハルトは少しげんなりしたように呟いた。


 彼の言動の根源にはやはり、ネームドが普遍的に所有する願望、もといは病巣が巣食っているようだった。


 「ああ、俺も少しだけ期待はしていた――」


 その病名は古い言葉で「死に至る病」と表現される。


 エルハルトも薄々勘付いてはいたものの、こうして直接、彼のその話題に触れたのは初めてだった。


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