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 「あー今日も床が冷たい……」


 暗がりに淡くぼおと光る大結晶の灯りを背に受けながら、今日もエルハルトはその謎石材の冷たさと、世の無常さを噛みしめていた。


 「お疲れ様でございます。エルハルト様」


 そして、いつものようにそんな主を遥か高みから見下ろす一人のメイド――――


 「だからいつもその角度で見下ろして来るの止めて?なんかみじめな気持ちになる」


 「これも仕事ですから」


 「いや、今日は休館日だよ!!ていうか今日は休みのはずだったのにどうしてこんな……」


 「安心してください。明日からしばらくはずっと休みですよ」


 「…………あ、そうだった……」


 「恐らく三か月ほどは営業停止でしょう」


 「いや、どうだろ……今回は放火、違法薬物使用だぞ。死人も出てる」


 「ああ、そうですね……では半年ほどでしょうか?」


 「まあそんなもんだな……ていうか僕たちが言うのもなんだが、刑期短すぎないか?……いや、彼らにとっては長い年月なのかもしれんが……」


 「まあ……そこら辺はミーシャさんたちが何とかするんでしょう。そもそも他の地域ではこんなことは日常茶飯事らしいですからね」


 「ああ、そうなのか……」


 「まあ、ボコられるべきダンジョンボスはそれくらいで良いんですよ。ダンジョンが稼働してないと、そこで働いてた人たちも、新しい職にありつけずにまた犯罪を犯してしまうかもしれませんしね。その為にいくらか政府から補助金も出るみたいですし、営業停止期間は短ければ短い程良いんでしょう。ダンジョンの封印を強めるための維持魔力量も馬鹿になりませんしね」


 「まあ、そうだよな、たとえダンジョンがネームドを封印しその力を吸収して稼働するものだとしても、吸収する魔力を増やして、封印を強めれば強めるほど奴らが制御権を得るための魔力は多く必要になるはずだからな……全く……世の中良くできてるよ」


 そう。ダンジョンの真の役割。それは過去に重大な罪を犯したネームドの監獄、永遠の命を持つ彼らをその地に封じこめ、力を削ぐための封印装置。それが現在ダンジョンと呼ばれるものが負っている使命だった。


 「まあ、うちはダンジョン経営型ネームド監獄のモデルケースとして一番初めに実施された。少し特殊な村ですからね。何よりここのエリアはミーシャさんが管轄ですし、ネームドの犯罪としては被害も少なく、しょっぱい罪状ですのでこれくらいが妥当なのではないですかね?」


 ダンジョンに囚われたネームドは各自の罪状やその多寡によって、行動制限を課せられる。エルハルトたちのように直近で罪を犯したネームドは、これまでの功績や罪状その他諸々を差し引いて、一定の謹慎期間が設けられ、その間はダンジョン内に監禁されるのだ。しかし逆に模範囚ともなれば、ダンジョン内で倒されると宝箱が出てくるという、古来からの謎システムを生かして、自らの監禁場所を娯楽施設のように経営し、日銭を稼ぐことも可能であり、更にはある程度のダンジョン経営実績を積み重ねることによって、人の住む村や町にまで指定された範囲内であれば出入りすることも可能だった。


 「なんか、しょっぱいって言われるとなんか癪に触るな――――まあ良い。奴らが良いのならそれでいいさ」


 「ええ、私たちにとってはそこまで長い年月ではありません。ダンジョン内の無視していた細かいタスクも少なくはないですし、謹慎期間と言えど、意外と忙しい日々になるかもしれませんね」 


 「はあ、でも自分で作っておいてなんだけど、なんで氷属性ベースのまま監獄にしちゃったんだろう。せっかく春が来たのにこれじゃあまた冬だよ。この制度を作る前だったら何とかなったかもしれないのに…………」

 

 そして何を隠そう、ダンジョンを改造し、その封印装置としての雛型を世界で初めて作ったのは、この冷たい謎石材の上でぶーたら不満を垂れている、エルハルト・フォン・シュヴァルツベルグその人だった。


 「でも創造主様(お母様)の遺したものは出来る限り手を加えたくないって、我が儘言ったのはエルハルト様ですよね」


 「ぐぬぬ…………元はと言えば、創造主様(母上)が悪いんだ。ボス戦の時のくそ長詠唱も、このくそ寒ダンジョンも、創造主様(母上)が『かっこいい!かっこいい!』って褒めそやすから……」


 しかし、彼の能力の大元を辿れば彼らの創造主たる“彼女”の影響が大きく、ダンジョンの大半の機構も彼女が手を加えたものであって、例えエルハルトであってもダンジョンの未知な部分や、制御不能な部分に介入することは極めて難しいと言わざるを得なかった。


 「ふっ…………黒歴史ですね」


 「う、うるさいっ!!良いんだよ!!もう創造主様(母上)には二度と会えないんだ。お前だって、このダンジョンが変わってしまったら嫌だろ?」


 「ええ、例えそれをしたのがエルハルト様だったとしても、ブチ切れますね」


 「え……こわ…………良かった…………変に変えなくて…………」


 エルハルトは身の危険を感じて、見下ろすメイリの足元から逃れた。


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