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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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7-13

 「……そうか、ならば話はこれまでだ。もし、お前がその感情や意志によって私の目的を阻もうとするのなら、私にとっては何の意味も無い、そよ風ほどの抵抗にすぎないという事――」


 「……」


 「つまりたとえ、お前の犯した罪――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――が種の保存という大いなる目的のためだとしても、私はそれらに何ら関心を寄せることが無いという事だ」


 「……――――」


 「何故なら、それは全人類に課せられた普遍的な善による、ある群体の限定的な社会規範の一つにすぎず、同じ善である、他の群体の”法”と呼ばれる規範においての”違法”であるという事実は覆りはしないからだ」

 

 法が倫理を元に作られているはずなのに、それを取り扱う場面ではそれらの源である感情をことごとく排除するのはなぜか。


 結局は人が、現実を認知し得る限界がそこに在るからかもしれない。


 アリアはダンジョンの蘇生ギミックを使った治療に対して、ポジティブな感情を無意識的に抱いていた。


 それは自分の命が助かったからでもあるし、その治療で得られた、エルフ専用の特効薬のおかげでもある。

 そして、何よりそれが愛や絆と言った善なる感情を元にして行われたものでもあったからだった。


 「だから、アリア、お前は今すぐここを去れ。消費されぬように生きろ」


 だけど、それらの理屈はルキナには通じない。

 何故なら、その理屈はこの現実世界において、人が認知し得る範囲の事柄では無いためである。 

 明文化されぬ法に規範は無い。

 それらは人の社会にとっては正にも負にもならぬ虚実だった。


 全てが泡沫の如く消え去り、返す言葉を持たないアリアは、背を向けた彼女に縋りつくことすら出来なかった。


 「それと、最後に――」


 だが、ルキナは足を止め、彼女に言った。


 「蔵書庫の決議書――あれの発案者の欄にはお前の父親の名前が書かれていた」


 アリアは彼女の言葉に大きく目を見開いた。


 ルキナは今度こそ足を止めずにアリアの前から姿を消した。


 「じゃあな、アリア。お前に未来が用意されていることを願っている」


 実体を伴った過去の幻影は、瞳に反射する鈍色の澱を彼女に残してその場を去った。

  


 ――――……

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