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真っ暗な部屋の中でただ一つ、神秘的な淡い輝きの銀が月明りに照らされて漂っていた。
それは窓際にぽつねんと置かれた、飾り気のない無垢な四つ足に座りながら、唯一の下界との繋がりである四角の窓枠を見つめて、ほう、と静かに息をついた。
誰も居ない。誰も知らない。
銀は自らを堰き止めている透明なガラスの板にそっと指を乗せると、反射したその人影を不思議そうに見つめた。
自分がいる。自分とはなにか。
その薄い透明のガラス板の中に潜んで、自らを堰き止める、その自分と瓜二つの姿はなにか。
不変。
彼女はそれが世界の真であると知っていた。
だが、その世界は唐突に終わりを告げた。
巡り巡り、移ろう。
くっついては離れ、離れてはくっつき、その姿を変える。
在るものは在り、在らぬものは在らぬ。
世界の真がそうであるのなら、それはどこからきて、どこに流れていくのだろうか。
コンコン――
部屋の扉が鳴った。
「メアちゃん、ご飯持ってきたよ」
「……!――ありがとうございます。アリアちゃん。私、あの――」
「ごめんね、メアちゃん。テオスさんに言われてるの……だから、ごめん。早く良くなって、また町に遊びに行こうね」
「――――……はい」
「じゃあ、おやすみ。メアちゃん。ちゃんとご飯食べてね」
「はい……おやすみなさい」
足音が去って、消えた。
「――――……」
”良くなる”とは何だろう。
万物が不生不滅であるのなら、その曖昧で抽象的な表現が本当の意味で果たされる瞬間は決して訪れ得ぬもののはずである。
銀が陰の中に消えて、しばらく後に、土鍋の乗ったトレーを抱えた銀が現れた。
それは再び繰り返された光景だった。
星々は宙を巡って、美しく、精緻な楕円を描き、再び元の位置に戻る。
永遠であり、不変。
世界はその繰り返しの中で一体どんな変化を受け入れたのだろうか。
「……いただきます」
もやもやと立ち込める白い蒸気の中に匙を突き立てて、水気を含んで混然一体となったその曖昧な白の塊を口に含む。
「……美味しい」
口の中に熱の振動が弾けるように伝わって、痛いくらいにその細胞を震わせる。
「なんで――」
何故、こんなにも身体が震えるのだろうか。
もしこの身体が不変のものであるならば、熱はその身体を通り抜けて彼方へと過ぎ去ってしまうはずなのに……
月明りの下で銀は淡い輝きを放ってさざめく。
頬を伝った月の雫が、曖昧な白と一体となって混ざる。
境界は破壊され、不変に終端が生まれた。
周期は乱れ、それは黒くぽっかりと空いた穴に飲み込まれるように落ちていく。
「ああ……」
秩序の終わり。混沌の夜明け。
重力に逆らって、無秩序的に飛び出したきらめきが、踊るように散ってゆく。
在るものは在り、在らぬものは在らぬ。
ならば――
「――――……」
ガラスの奥に潜む誰かが、にっ、と顔を歪ませた――
――――――…………
――――……
――……