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6-30

 「それはそれとして、今回あなたをお呼びした経緯についてなのですが――」


 「いいよ、わかってる。あの日のことについて聞きたいんでしょ? 私が何をしようとしてたのか」


 「……」


 あの日、彼の日常が赤い炎で埋め尽くされたあの日。どうも彼女は彼女で何か良からぬことを企んでいたという情報は、もうすでにメイリが彼女の保護者に当たって、裏が取れている事実だった。

 

 「そうですね……翌日、別件で調査団が到着します。その時の為に不安要素は取り除いておくべきだと思いまして」


 「ふうん、随分急だね。別件の調査団とはあれかな、さっきのエルフの女の子の件についてかな」


 「……良くご存知ですね」


 「まあね。最初に知った時はエル君の正気を疑ったよ。わざわざ玲瓏館でそんなことする必要ないのに……でも、まあ、冷静に考えてみればここ以上に適当な場所も無いだろうし、少数とはいえエルフはそれなりに力の強い勢力だ。恩を売っておくのもそれほど悪いことじゃない」


 「……そんな打算的な考えでエルハルト様がアリアさんを受け入れたと本当に思いますか?」


 「ノーコメント」

 

 レーネだってエルハルトのお人よしに助けられ、振り回された口だ。彼の行動原理が常にそうである限り、その順序に関しても常に不動であることはあらかじめ留意しておかなければならない。


 「今回の件に関しては倫理的にはこちらに非があるのも事実ではあります。そのため、今調査団は特に念入りに手を入れてくると考えた方が良いでしょう。しかし、そうであるならば、あの良くわからない魔法陣の痕跡や、あまりにも膨大なマナの残滓などを説明するためにある程度、筋の通った建前が必要となります」


 玲瓏館のボス部屋。大広間には未だに彼女の悪戯の形跡がところどころ身を潜めていた。


 「……出来るだけ痕跡は消したから大丈夫――たぶん」


 「本当にそう思いますか?」


 「ノーコメント」


 「……はあ」


 メイリはこの無口な大魔術師の頑なさに、大きくため息をついた。

 どうやら彼女の様子を見るに罪悪感のようなものはその内に存在してはいるようだが、それを清算する術は彼女自身も持ち合わせていないようだった。


 でなければ、この泰然自若とした少女が、呼び出しを受けて、わざわざこちらに赴くことは無いだろう。


 レーネはメイリの視線から逃れるように目を逸らすと、再び創造主が残した骨董品の数々を検分する作業に戻った。

 

 「まあ、良いです、私はあなたの事は大体信用しています。ですので、話せる範囲でいいのであまり身構えずに答えてもらえばそれで十分です」


 「……なんか気持ち悪い」


 「な、なにがですか」


 「あんまりよく知らないのに信用してるとか言わない方が良い」


 「……はあ、じゃあ、信用はしてませんけど、良い感じに話してください」


 「――――……」


 ちょうど検分の途中だった大きなクマのぬいぐるみの陰から、顔だけこちらに向けて、伏し目がちに見つめるその小動物的な視線は、どうにも取りつく島が無いように見えた。


 どうやらお互いに少しだけ時間と心の猶予が必要なようだった。

 恐らく彼女にとってはそれだけ重要な情報であるのだろう。


 レーネの迷いはそれ自体が、メイリを真実へと導く、大きな力学的な振動だったが、それ故に繊細に扱わなければ、全ての観測情報もなぎ倒され、塵となってしまう程の揺れ幅と力を持つものでもあった。


 「申し訳ございませんが、少し席を外させていただきます。すぐに戻りますのでくれぐれもそちらの品々にはお手を触れないようにお願いいたします」


 「……うん」


 だから、静かにその浸透を待つ。

 幸か不幸か、その時間が苦にならない程の時間が、神から彼女たちには与えられていた。


 メイリは部屋の隅でうずくまる、小動物と言うにはいくらか大きすぎる図体のレーネを一人残して、部屋を出た。

 

 ――――…… 


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