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6-29

 屋敷の曲がり角を曲がって、彼女たちの姿が見えなくなった後にレーネが言った。


 「あなたって、あんなに友達いたんだね。ちょっと意外」

 

 もう日の暮れかかった宵闇の気配の中で、歩く彼女の横顔が、屋敷の仄暗い燭台の明かりを逃れて、黒く陰に染まった。


 「――ええ」


 そんなレーネの不躾な言いようは、本来はちょっと頭に来てしまうものなのかもしれなかったが、メイリは今日だけは何故か、そんなような気分にならなかった。


 「エルハルト様のおかげです」


 そしてメイリは返す言葉を少しだけ考えてから、そう言った。


 「へー、そう」


 「何か?」


 「いや、素直に羨ましいなって」


 そう言ったレーネの表情は、仄暗い玲瓏館の廊下の中でもわかるくらい、今日も相変わらず表情筋が死んでいた。


 だけど、そんな難解な計算式のような表情を前にしても、何故だかメイリは彼女の言葉が本心であることに直感的にたどり着いた。


 そうだ。自分は恵まれている。

 世界は愛に包まれている。

 世界はこんなにも豊かな色合いを持っている。


 紛れも無い真実だ。


 真実を映し出すまばゆい記憶の結晶の中で、彼の優し気な藍色の瞳が映った。


 それを今まで直視できなかったのは、それを与えようとしてくれていた彼の視線が無くなってしまう事を恐れたから。


 彼にずっと自分のことを見てもらいたかった……

 停滞の中で、ずっと彼の声に耳を傾けていたかった……


 「……」


 「……」


 二人は目的地に着いた。


 そこはかつてのメイリのサボり部屋にして、あらゆる思い出が押し込められた例の物置部屋だった。


 「へえ、ここがミーシャをいつも連れ込んでたって言う例の物置部屋ね」


 「あまり人聞きの悪いこと言わないで下さい。あの人が絡むとちょっと洒落にならないんですから」


 「んー、まあそうだね。私も薄々感づいていたけど――」


 レーネが数あるマネキンの中から、とびきり可憐な、フリルがふんだんにあしらわれた、いかにも「彼」に似合いそうな衣装の一つを見つけて、そのスカートの裾をすらりとした白い指でつまんだ。


 「うーん、でもまあ、これなら仕方ないかも」


 この場にいないのに勝手にディスられて、勝手に同情される勇者と屋敷の主に、こちらもまた同情を禁じ得ない。


 「……それに関しては私も同意見ではありますが、あまり勝手にそれらのものには触らないようにお願いいたします。一応、創造主様(お母様)の形見ですので」


 「ああ、ごめん。つい、スカートの中の果てしない銀河が気になっちゃって」


 「……」


 やっぱり彼女が育った環境はあまり良いものではなかったのかもしれない。


 彼女を連れ立って世界を巡った、彼ら教育者たちの面々を思い浮かべて、その過酷な教育環境にメイリはまたしても同情を寄せた。


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