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6-28

 「では、皆さまごきげんよう――さて、いきましょうか、レーネさん」


 そしてメイリはすぐさま顔を上げると、くるりとアリアに背を向けてレーネに声を掛けた。

 しかし――


 「うん――あっ、でもその前に」


 踏み出しかけた足を止めてレーネが言った。


 正直メイリもかなり恥ずかしいことをした自覚があったので、もう今すぐにでもこの場を立ち去りたい気分だったが、どうやらレーネにはまだ用事が残されているようだった。


 メイリが少し気まずい心境の中で、レーネを見つめていると、彼女は徐に歩き出してメイリの脇を抜け、そして背後にいるシラの前に立った。


 「シラさんって言ったっけ?」


 「あ、うん。そうっすけど……」


 意外なことにレーネの用事はシラに関するものだったらしい。


 「ちょっと手の甲、見せてくれる?」


 「? ああ、はい」


 そして皆がその行動を不思議そうな顔で見守る中、レーネはシラに手のひらを出させ、そこに何やら人差し指でさらりと文字を書くようになぞった。


 「え、何すか、これ」


 もちろん当のシラも不思議そうな顔で言った。


 「いい子になるためのおまじない」


 「いや、何すかそれ」


 「三日で取れるから。頑張って」


 「え……」


 レーネは言葉少なにシラにそう告げると、天井の何も無い空間に目を向けた。


 「……」


 「……?」


 すると驚いたことに、唐突にどこからともなく”たらい”がシラの頭上に降ってきて、ガシャンとその頭をしたたかに打ち付けた。


 「――!……あっ、痛ったー」


 「うん、これはチュートリアル。三日間だけいい子にしてたら大丈夫だから。じゃあ、また」


 「えっ、なにこれ!? 馬鹿じゃん!! これ馬鹿じゃん!!――って、あっ、痛ったー!!」


 レーネは、早速「悪い子スパイラル」に陥っているシラに背を向け、何事も無かったかのように歩き出した。


 「行くよ」


 全てを置き去りにして、メイリの前に立ったレーネが言った。


 「……これ、勇者がやることですか?」


 折角のいい雰囲気をぶち壊してでも、彼女がそれらの仕事をやり遂げたことに、メイリは少し引き気味だった。


 「うん、旅してた時はあんなんいっぱいいたからね。良い魔法でしょ? 開発者私」


 「へー、そうなんですね」


 そしてメイリはそのレーネの言い草に、絶対に彼女には手の甲を見せない事を誓った。


 ――レーネさん、あんたやっぱ神だわ……


 ――神なもんか! 悪魔だ、悪魔! って、あー痛ったー! アリアちゃん、痛い。治癒魔法掛けて

 

 ――……へっ? ああ、そうですね……もう、仕方ないですね。一回だけですよ、さっきのお礼です


 立ち去る背中に彼女たちの賑やかな声が聞こえる。

 

 暖かくて、とても大事な日常。

 

 メイリはこの温もりを絶対に手放すものかと思った。 

 


 ――――……

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