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6-27

 「まったく……いつも表情筋が死んでいるあなたがあんな顔をするのだから、一体どんなことかと思った」


 レーネがメイリに視線を向けて、あきれたように言った。


 「あなたにだけは言われたくありません」


 「そう、別に何でもいいけど、早くして。もう日が暮れちゃう」


 「……」


 しかし、レーネは先ほどの優しさはどこへやら、途端に興味を失ったかのようにいつもの感情の読み取れない無表情で、メイリの視線から逃れた。


 最初に会った時よりかは大分話が通じるようになったかと思っていたが、それはメイリの勘違いだったかもしれない。


 だが、話は通じなくても、通じた約束は守らなくてはいけない。


 「そうですね」


 メイリはレーネ以外の三人に向き合った。


 「そういう事ですので、申し訳ございませんが残業の続きはまた今度という事にさせていただけませんか?」


 正直なところ、何一つ問題は解決してはいないものの、何故だかメイリは、先ほどまでとは全く違った気持ちで彼女たちに別れを切り出すことができた。


 そして、そう問いかけられた小道具係の二人も、彼女の様子が見かけ上はいつもの無表情へと戻ったことに安心したのか、二人も彼女の提案に頷いて、それぞれ別れの言葉を返した。


 「あっ、いえ、こちらこそすみません忙しい中。ではまた――」


 サラがいつもの社会儀礼的な挨拶を交わす。

 

 「あ、大丈夫っすよ。残業とか嘘なんで」


 そしてシラがいつもの反社会的な態度で場を混ぜ返した。


 「ばかっ、そんなことわかった上で言ってんのよ、ばーか」


 「ふふっ……」


 メイリは二人のやり取りに思わず笑みをこぼした。


 そして、メイリはそんな日常の存在を思い出させてくれた友人たちに約束事を作ることに決めた。


 「シラさん、サラさん、メルクリ屋のケーキ、楽しみにしてますからね」


 「あっ……はい!喜んで!」


 メイリの浮かべた、恐らく初めて見るだろうその柔らかで自然な微笑みに、サラは感動した様にそう答えた。


 「やったー」


 シラも嬉しそうに両手を挙げた。


 「だから何であんたは奢られる前提なのよ」


 メイリはそんな日常にいつもの無表情を更に崩して微笑むと、最後にまだ日常を取り返しきれていないアリアの透き通った翠を見つめた。


 「それと、アリアさん――」


 もう一つ約束を――


 「はい」


 もうその目は涙で濡れてはいなかった。

 彼女は強い。自分なんかよりもずっと。

 だから、お互いを縛り付ける約束なんか必要ないのかもしれない。だけど―― 


 メイリは長い足を折り曲げて、アリアの可愛らしい尖った耳に口を寄せた。


 「あなたの方こそ、あまり無理はしないでくださいね。全てわかってますから」


 そんな強さに歩み寄るように、隣に立って、身体を寄せる。


 「め、いりさん……」


 だけど、足りない。まだ通じ合えない。


 だから――


 「ふふっ、嘘です。あまりわかってません。だから、教えてください。あなたの事。私も話しますから。私のこと――」


 倒れこむようにもたれかかる。


 「――!……」


 「一緒に頑張りましょうね」


 「……はい」


 今度はアリアの方が言葉を失う番だった。

 息の触れた、可愛らしく尖った少女の耳の先端が、さっと赤く染まった。


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