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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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6-25

 「そうですよ!メイリさん!」


 しかし、その時どこからともなく聞こえた声が、その繋がりを失いつつある直線に混沌を混ぜ込んだ。


 「アリアちゃんも待って――二人とも、少し私の残業に付き合ってくれない?」


 唐突に廊下の曲がり角から飛び出て、二人に声を掛けたのは小道具係のサラだった。


 「お取込み中のところ、唐突に声を掛けてしまってすいません。もちろん、残業代は先輩から別途支給されますので、安心してください」


 そして、同時に後ろから彼女の後輩であるシラもひょっこりと顔を覗かせて、先端を切るサラの背中を後押し、もといタックルをして彼女を崖へと突き落とした。


 「……」

 

 「……」


 ……あまりにも唐突な救援だった。


 「え?私が払うの……?まあ、確かに残業にはそれなりの対価が必要……えーと、じゃあ、残業代はメルクリ屋のケーキで良いかしら?」


 「やったー」


 「あんたにはあげないわよ」


 「えー、ケチ。守銭奴。旦那に逃げられた負け犬」


 「その反射的に他人を誹謗中傷する癖、もうそろそろ治そうね」


 そして、唐突に始まった二人の即興漫才に、アリアとメイリは思わず足を止めて聞き入った。


 そう、メイリを助けたのは他でもない、かつて名前すら思い出すことができなかった二人の小道具係だった。


 (サラさん……シラさん……?どうして……)


 しかし、名前を知らなかったのはもう過去の話だった。

 浸透する情報は、幾重にも隔てる双方の壁を乗り越え、名前以外にも互いを知り得る様々な情報が双方が持ち得る共通認識となって、隔絶された空間を繋ぐ一本の目に見えない糸となっていた。


 確かにその糸はそれほど太い線ではないかもしれない。

 だが、その繋がりの先に困っているような気配を感じた時、手を差し伸べるようになるほどには意味のあるものでもあった。


 メイリは二人の漫才を聞くうちに、ようやく少しだけ声が出せるようになっていることに気付いた。


 「あ、あの……」


 つまり、二人を現存在の日常における普遍的な言葉で言い換えるのなら、それは「友達」だった。

 全ての日常が去ったわけではなかったのである。

 

 「あ、ごめんなさい、メイリさん。でも、アリアちゃんの言う事も最もですよ? あんまり根を詰めすぎちゃだめです。私たちだっているんですから」


 「うん、申し訳ないけど、あたしも先輩と同意見。あんたは確かに何千年も生きたネームドかもしれない、だけど恋愛に関しちゃあ、赤ちゃんなんだよ――と陰口を叩いていた先輩と同意見です」


 「……――――」


 これが日常……? 友達……?


 「ちょ!!ちょっと何ばらしてんのよシラ! それは本当のことだけど、そんな風にばらされたら良い感じにオブラートに包んで励ます方法を考えていた私の努力が無駄になるじゃない!」


 「……」


 メイリは恋愛経験赤ちゃんレベルという至極まっとうな評価に思った以上にダメージを受けた。

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