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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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6-21

 『ど、どうしようねエル君――』


 『え、えーと……そうだな……まずは十位から発表してくか――』


 『あ、結局その方式で決めるんだ――』


 念話上の会話であるのにも関わらず、互いにどもりちらかしている二人の会話の端を聞きながら、念話の接続を切って、その会場から静かに退出する。

 

 閉まった扉の、かちゃりという冷たい金属音に、ざわざわとした心のさざめきが一挙に静まったのを感じた。

 

 メイリは誰にも聞かれないように静かに息をついた。


 「……――――」


 果たして念話上でなければ、彼女はその役割を果たすことができただろうか。


 急に降って湧いた沈黙が、彼女の耳朶を痛いぐらいに刺激した。


 メイリは頭を振って、その耳鳴りを振り払う。


 彼女はもう自由だった。


 自らを束縛する、あの何もかもを包み込むような、穏やかで、理知的で、それでいて不思議と近くの彼女の心に、大きな楔を穿つ碧の瞳は、もう隣にはない。


 いつかと同じように、閉じた旧い深茶色の木目をしばらく見つめて、彼女は扉にそっと声にならない声を吐き出す。


 ――どうして……どうして、その告白を受けたの。


 目の前の旧い扉は自らの役割を、長い時間を掛けて真っ当にこなしている。

 例えばもし、彼の主人が遠出をしたとして、この目の前の扉はその仕事を放棄するだろうか。


 もちろん、今日も目の前の旧い扉は自らの仕事を真っ当ににこなし、泣き言も、目の前に投げかけられた質問も、真空の中を流れる布を引き裂くような無音の悲鳴にも、何ものにも動じずにただそこに在る。


 (ずっと変わらない。変わらなくていい。それが私のあるべき形)


 それが明日、突然その役割を放棄してどこかに行ってしまうなどとは微塵も思えなかった。


 「――――……」


 メイリは旧い扉に背を向けて歩き出した。


 あの旧い扉とメイリはその形状は違えどほとんど同質の存在である。

 少なくともあらゆる歴史的事実と、自然科学的な観測はそれが真であると語っている。


 であるならば、メイリもあの扉と同じように、ただひたすらに自らの役割をこなし続けるのみだろう。

 それはたとえ主人の帰還が、永久に果たされ得ぬものであってもその役割が変わることはない。



 ――――……


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