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6-20

 『いや、あの……』


 『ちょっと待ってくれメイリ――』


 『ええ、そうですよね? ここ一月程いろんなことがありましたね? 秋になって寒くなりました。アリアさん関係でもまたいろいろあって、それにお仕事も、おかげさまで病人が出るほど忙しくさせていただいております』


 『……』


 『……』


 最後の一言にエルハルトは苦虫どころか、毒虫を噛み潰したような表情になり、念話の先の暖かな気配は一気に冷め切ったように静まり返った。


 『では、お二人の関係ってどうなったんでしたっけ? 一月も付き合っていれば、当然いろんなことが起きますよね? 例えば初めてのデートで手を繋いで歩いたり――』


 『ひゃあ!』


 しかし、我慢ができなかったのか、日ごろの鬱憤をため込んだ雪崩のようなメイリの語りを一人の少女の可愛らしい声が止めた。うるさい。


 『うるさいなあ……えーと、二人で夜景を見て、良い雰囲気になったり――』


 『ふわあ!』


 今度はしょぼくれた野犬の遠吠えが止めた。うるさい。


 『だからうるせえよ……えーと、お二人はそう言うの、一ミリでもございましたか? 何もございませんでしたよね!? だって、エルハルト様は一生うじうじ部屋に引きこもってしまっているし、ミーシャさんはミーシャさんで、玲瓏館に来る回数もめっきり減ってしまって……私、結構寂しかったんですよ?』


 メイリは語りを止められた意趣返しのように、念話のマナに少しの恨みを込めた。


 『あっはは……ごめんね、メイリさん』


 『その……すまない……』


 そうしておけば、二人は意外と無茶な話であっても聞いてくれることをこれまでの経験でメイリは学習していた。


 『――はい、というわけで今回の企画というわけですね。ではこの第一回チキチキ!相手を良い感じにデートに誘えないと終わらない念話 ベストテン という事なんですが――』


 『いや、他はわかるけどベストテン要素どこ……?』


 野犬が言った。


 『何か問題でも?』


 『いえ、何も』


 野犬はメイリの極寒の視線に一時的にその減らず口を閉じた。


 『あ……では、という事なので、折角なので行きたい場所をお互いベストテン形式で決めていくという感じでやっていきましょうか』


 『あ、今思いついたんだ』


 『元々どう決めさせるつもりだったんだ』


 だが二人もそんなメイリの様子にはもう馴れっこであるため、だんだんと乱されたペースを取り戻し始めているようだ。

 これはもうそろそろ潮時かもしれない。


 『ああ、もう、ごちゃごちゃうるさいですね。ちゃっちゃと決めやがってくださいよ、このヘタレ唐変木どもが――私はいろいろと忙しいんですよ』


 『ヘタレ――』


 『唐変木――』


 であるならば、もう早々に役割を果たすべきだろう。

 この後の予定が立て込んでいることも事実だった。


 メイリは少しの未練を心の内に抱えながらも、主催者としての最後の役割を果たすために締めに取り掛かった。


 『はい、じゃあ、よーいスタート……あとそれと、私はこれから用事がありますので一度失礼させていただきます。もちろん決まったら念話で教えてくださいね』


 そう言ってメイリは早々にエルハルトの視線から逃れるように背を向けた。


 彼女の計略は主催者である彼女が立ち去ることによって完了する。

 主催者であるメイリの最後の役割とはつまり、彼らに帰れなくなる呪いを掛けたのちに、二人っきりにする事だった。


 『え、ちょ、ちょっと待ってよメイリさん』


 『おい、メイリどこ行くんだ、お前がいなくなったら――』


 メイリは縋りつく野犬の視線に、目線だけを向けて言った。


 『お二人とも現状はおわかりですよね? 一体誰のせいで、仕事量が急増したのか、その結果誰が、どんな状況に陥ったか――』


 『うっ……』


 『おわかりですね? 私はさっさと元の健やかな生活に戻りたいだけでございます。メアのため、玲瓏館のため、どうぞお二人ともお力添えをいただきますようよろしくお願いいたします』


 そしてメイリは最後に扉の前でくるりと振り返って、念話越しに『ごきげんよう』と言葉を残し、しょぼくれた野犬のような面を継続する主人を残して彼の自室を立ち去った。

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