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6-19

 覚悟を決めたメイリは徐に脳内で念話の魔法を立ち上げると、ニコニコと活発な笑顔を浮かべるあの赤髪を思い浮かべ、彼女を念話に呼び出した。


 『あー、もしもし? メイリさん? どうしたの、またトラブル?』


 『ええ、こんにちは、ミーシャさん。まずは唐突なお念話を謝罪させていただきたいと思います」


 まずは謝罪。ごめんなさいは早めに言う事。母の教えである。


 『ん? え、何? なんか嫌な予感するんだけど』


 念話の振動が彼女の困惑を伝えた。


 『まず、一つに報告しておきたいことがございます』


 『はあ……』


 『妹のメアが倒れました』


 『え゛え!? 大丈夫なのそれ!? 待って、今すぐそっち行くから――』


 しかし、話の順番は大事だ。簡潔に、論理的に、そして結果を先に話す。

 だが、その方法は厄介な問題を同時に孕んだ、一利一害の手法でもある。

 何故ならこのようなせっかちな人間には情報の全てと、意図が正確に伝わらない可能性があるからである。


 『ちょっと! ちょっと待ってください……話を聞いてくださいませ、勇者様……今来られても、あなたにはどうすることもできません。医者の判断により、面会謝絶という事になっておりますので、むしろあなたに来られると事態がさらにややこしくなってしまう可能性がございます』


 『そ、そう……でも――』


 『ええ、しかし、安心してください。診断は過労とのことですが、面会謝絶の処置は短期的なものであり、症状としてはそれほど重くはないようです。具体的にはテオスさんによれば二日ほど安静にすれば大体は快方するとのことで、それ以降は面会も普通に行って良いとのことです』


 『そっかあ、なら良かった……』


 『ええ、本当に良かったです……えーと、ですので――』


 メイリは無事本題に入れそうであることに気付いて、心の中で小さくため息をついた。


 メイリの視線の先では未だに野犬の表情を宿したまま、突然黙りこくった彼女を訝し気に見つめる藍色の瞳があった。


 『あなたにはこれらの情報の上で、こちらから申し上げたい”お願い”が一つございます』


 メイリはもう一度覚悟を決めて切り出した。


 『え、何……?』


 メイリは脳内で念話の魔術機構システムを操作して、新たな入室者を招き入れる。

 テロン、と念話をする脳内に軽快な音が鳴り響いて、システムの音声が新たな念話への参加者の入室を知らせた。


 『ん、いきなり黙り込んだと思ったら何だ? わざわざ目の前にいるのに何で念話なんか――』


 『こ、この声は……え、エル君!?』


 『み、ミーシャ!? おい、メイリ、これはどういうことだ』


 そして、思った通りのリアクションに、メイリは心の中で先ほどとは違った意味のため息をついた。


 『そういう事、でございます』


 『そういう事ってどういう――』


 『ええ、題して、第一回チキチキ!相手を良い感じにデートに誘えないと終わらない念話 ベストテン~』


 『は?』


 『は?』


 鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス。


 『はい、というわけで始まりました、”第一回チキチキ!相手を良い感じにデートに誘えないと終わらない念話 ベストテン”ですけどね、もうお二人には説明は不要ですよね?』


 殺してしまわぬだけ情けがあると思っていただきたい。


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