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6-16

 「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、テオスさ――」


 もちろんアリアはこの不十分な対話に納得できずに、彼に食い下がったが、テオスはただ一瞥、意味ありげな視線をアリアに送ると、二人を分かつようにその間に立った。


 「ではメア」


 そして、何故か心なしか厳かな口調でメアの方に向き合ってそう告げると、


 「医者としてお前に診断結果を言い渡す――お前の病名は『過労』だ。故にこれより一週間の労働の禁止を言い渡し、それに加えて、自宅での安静を義務付ける」


 と続けて、彼のもう一つの肩書きである医者というペルソナを片手に、その職権を持っていきなりメアに病状とその治療法を言い渡した。


 「え?」


 メアは自分に言い渡された「病状」について、いまいち理解できなかったらしく、頭上に大量の疑問符を浮かべて硬直した。


 「へ?」


 もちろんアリアも状況を理解することができなかった。


 まさに破壊者たる所業だろう。

 だが、彼の行いはこの楽園を略奪した僭主の、妥当な権力の行使でもあった。


 そうして二人が呆気に取られている内に、略奪者たる僭主はメアのやり残した仕事を引き継いで、勝手に植物たちに水をやり始めた。


 「ではそういう事だからメア、お前は速やかに自分の部屋に戻り、養生しろ。少なくとも二日は部屋から出ることは許さん。エルには俺から伝えておく」


 そして、しばらくぼおと一人立ち尽くしていたメアに痺れを切らしたようにそう言い放って、もう話は終わりだと言わんばかりにまた水やりを再開させた。


 「そ、そんな、ま、待ってくださいテオスさん――」


 メアが手の届かない瓦礫の山の上で、掠れた小さな声を上げた。


 「言い訳は聞かん。俺の診断は絶対だ。エルもそういう了見の下、この俺に――」


 しかし医者は無慈悲だった。

 テオスはそこで言葉を一端区切って、アリアの方を見ると、


 「そいつを任せている。ならばお前もその決定に従うのが、従者の役割だろう?」


 といって、またその気だるげな横顔を見せた。


 「そ、それは……」


 「話は以上だ。さあ、さっさと部屋に帰れ」


 アリアも我に返ってようやく彼に抗議の声を上げる。


 「ちょっとテオスさん!さすがに意味わかんなさ過ぎですよ!ほら、もうちょっと他に――」


 「ああ、それとお前は少しここに残れ」


 「えっ?」


 だが、それも彼の一言で封殺されてしまった。


 「メア、部屋に一人で帰るぐらいの体力は残っているだろ?」


 「……はい」


 「ではもう行け。上の花たちついても心配はいらない。俺が全てやっておく」


 「――――……はい」


 彼は医者である。そうなれば彼を必要とする次の患者の為に、もう用が済んだ患者はその診察室の椅子を譲らなくてはならない。


 テオスに最後の一撃を食らったメアは観念した様にとぼとぼと植物園の出口へ向かい、最後に重々しく深茶色の扉が閉じる音が響いて、楽園と呼ばれた地の、最後の神話が終わりを告げた。


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