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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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124/214

6-15

 「……」


 「……」


 「あ……えと……メアちゃん? これは違うの。いや、違わないけど――」


 だが、それで良かったのかもしれない。


 「えーと……実はそう。そうなの……」


 古来より人類の歩みは、果てしない神性に名前を付けそれを貶めることによってなされてきた。


 アリアはしばらくの間必死になって廃墟となった楽園の修復を試みていたが、諦めたように、ただ一人残された楽園の主へと向き合った。


 「テオスさんの言う通り。私、少し前から心配してたの、メアちゃんの事」


 その様子をただ黙って見守っていた主犯たる侵入者が、鼻から息を流してただ一つ、ふん、と音を鳴らした。


 彼のその行いからは真意を窺い知ることはできない。


 「え?どうして?私、いつもと違いますか? どこかおかしいですか?」


 枯れた大地の上で楽園の主が言った。


 「いや……おかしいというか、最近いろいろ変わった事があったじゃない? ほら、なんていうか人間関係とかさ……」


 アリアは何かに縋るように廃墟の瓦礫の中を、遠くに見える彼女を目指して進んだ。


 「……――――」


 だけど、どれほど進んでも彼女の面影が、その視界上で面積を大きくすることはない。


 「えと……いや、別に今すぐ無理に話さなくていいんだよ? なんていうか、心のもやもや? みたいなものがあるんだったら、具体的じゃなくても話してくれたらうれしいなあ、なんて……」


 歩み寄れば歩み寄るほどにその距離は遠ざかるような――


 「……」


 「……」


 「はは……」


 そして、結局アリアは彼女がいる次元にたどり着くことはできなかった。

 歩く術を見失ったアリアは沈黙の廃墟の中で、ただ立ちすくむ。 

 楽園の主はいつまでも交わることの無い平行線の上で、立ちすくむ次元の違う彼女を理解の及ばない不安気な表情でただ見つめた。


 どうやら、アリアが進んでいた方角はまるっきり見当違いな方角の様だった。

 それどころか恐らく、進むという行為すらどうにも見当違いな行いであるように思える。


 それどころか、少なくともそれが”彼女たち”と共有する理念であるとは限らず、さらに”彼女たち”の視点のようにもっと俯瞰した見方をした場合、その方向性すらも「先」や「前」であるという事実を忘れ、それこそ砂上の楼閣の如く消え去ってしまうだろう事実にアリアはしばらくの沈黙の後に行き会った。


 人間は空間を移動する物質の動きや「先」や「前」といった位置を特定する言語的な表現からは、それ単体のみでは時間の方向性を特定することができない。


 「あの、だからね、メアちゃん――」


 故に「人類の進歩」という語句が内包する確実な方向性などこの世界のどこにも存在しない。


 「ふふ……いえ――いえ、私は大丈夫です。大丈夫ですよアリアちゃん。なんだかアリアちゃんとお話をしている内に私も元気になったみたいです――だから何も問題ありません! さっきはちょっと失敗しちゃったけど、もう引き摺ってません。だから安心してください。次は失敗しませんから」


 そして永遠を生きる花たちはたちどころにその散った花弁を取り戻し、健気に咲く、淡い優し気な白を覗かせるのだ。


 「う、うーん? いや、そうなんだけど、そうじゃなくて……」


 アリアはその繰り返しから、一定の法則を得ようとあらゆる努力を試みたが、有限の存在である彼女の視点からはそれらの無限について、何一つ確からしい真実は得られないだろうことを、何度かの経験でそれとなく察していた。


 「ふん、話は終わったようだな」


 テオスが見切りをつけるように二人の会話にピリオドを打った。


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