6-12
「こちらがダンディライオンさん――」
「たんぽぽ……?」
「こちらがローンファイアブロッサムさん」
「なるほど……基本だね」
「こちらがアロマセラフィージャスミンさん」
「あら、可愛い――でもこの流れは……」
「そしてこちらがフェニキシアン・クラスター・アマリリスさんです」
「やっぱ植物って害悪なんだよなあ」
アリアは先導するメアに連れられて、結局普通に楽しみながら植物園を観光していた。
色とりどりの草花に、あくと毒性が強い、時に人を死に至らしめるような多種多様な植生が円状を形作る曲線に沿って並べられ、それらがアリアに死の危険を感じさせるほどに視線を投げかけ、その高い背丈を威張るように迫っている。
もちろんアリアとしても目的を忘れているわけではない。
だが、それはそれ、これはこれ。
あれか、これか、と目の前の諸問題に対して選択を悩む時間は、やはり人間にとって必要な行程なのである。たぶん……
「ねえ、メアちゃん、これ本当に全部合法なの? なんか基本的に全部やばそうなんですけど、なんか無駄にでかいんですけど、なんか無駄に常に蠢いてるんですけど……」
そしてアリアは直近に迫った、未だ拭いきれない恐怖という諸問題を解決せんとするためにメアに再三の確認をした。
通常、植物と呼ばれる生命は人の目から見れば、その活動は長い時間を掛けてしか知覚できないもののはずだ。
少なくとも前回この場所に訪れたときはここまでアグレッシブではなかったような記憶がある。
「はい、そうですね。ここにいらっしゃる植物さんたちは外の植物さんたちと違って少しだけ落ち着きが無く見えるかもしれません。でも、皆さんとっても良い方達なんですよ。確かに前回アリアちゃんが来られた時より数も増えて、最初は行き違いでやんちゃしてしまう方たちもいらっしゃいましたが、今ではほら――」
メアはアリアが制止する間も与えずに徐に手を伸ばすと、牙らしきとげが無数に生えた大きな口を持つ得体のしれない植物に近づいて行って、その牙を優しく撫ぜた。
「こんなに、お利口さんになって……」
撫でられた植物さんは牙をむずむずとさせながらその口の端からだらだらと体液を垂らした。
「……」
アリアは今絶対の安全を感じている。
何故なら目の前の聖母のような微笑みを浮かべる彼女に、絶対を感じているから。
先ほどのニチアサソウがどれほど命知らずだったのか改めて痛感する。
それほどまでにこの世界では彼女は絶対だった。