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「お姉さま……その……よろしかったのですか?」
いつもより早足で歩く姉の背中を、妹は離されぬよう追いかけて、帰路の、村の外れ辺りに至ったところで、ようやく落ちてきた姉の歩幅に追いついて、その背中に声を掛けることが出来た。
「何の事かしら。限定パフェは全部食べたでしょ?余り長居するのはお店に迷惑だわ」
「いえ、そのことではなくて……」
「では何かしら」
「えーと……その――――」
「メアには……わからないでしょう?」
「えっ?う、うん……でも……」
「――――――………ごめんなさい。私って最低ね……」
「………」
村の外れの玲瓏館への帰り道。山の入り口の小高い見晴らしのいい丘。そこに一本の一際目立つ、樹齢が何千年とあるような大木が、ぽつねんと立っていた。
「あの木……」
「え?」
「あの木……そういえばあの木の下でエルハルト様が村を眺めていたことがあったような気がするわ……」
「ええ……あの場所は、エルハルト様のお気に入りの場所みたいですよ」
「そう……そう、だったの――――……私……全然知らないじゃない」
そう、何も知らないのだ。エルハルトの事もそして自分の事も。メイリは自分がなぜこんなに悲しい気持ちになっているのか、半分も理解していなかった。
「私の世界はエルハルト様とメアとそしてあの玲瓏館だけ。でもそれすらも私は何も知らなかった……」
メイリはエルハルトが眺めた景色を、同じ場所に立って、同じ景色を見ようとした。何の代わり映えもしない長閑な村。村の中心にかけてぽつぽつと増える家々。古風な景観と装飾を保ったありきたりな田舎の風景。それはミーシャとその仲間たちが、守り、繋いできたものだ。でもメイリにわかるのはそれぐらいだった。メイリは彼がどんな気持ちでこの村を眺め、そして、どんな気持ちで彼女の事を想っていたのか、何一つわからなかった。
「――――エルハルト様……」
「――――――…………はっ!!…………お姉さま大変ですっ!!あそこ!!火が!火事ですよ!」
メアの声と同時にメイリもその素朴ながらも美しい村に一つの汚点がもくもくと立ち上がっていたのが見えた。美しい絵画に溢したインクのように景色を染める灰色のくすみ――――
「…………!!――――行くわよメア!」
「はい!」
(あの場所は……)
――――――…………
――――……
――……