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閑話休題。
「はい!もちろんです!」
そしてメアはそんなアリアの心境を知ってか知らずか、いつもの、太陽のような笑顔を浮かべると彼女の提案を快く承諾した。
「あ、ありがとうメアちゃん。じゃあ私は何を――」
「――あ、でも、実は植物さんたちは毎日お水が必要なわけではないんです。もちろん毎日お水が必要な方もいらっしゃいますが、その方それぞれで生活が違って、二日おきとか、一月ごとの植物さんもいらっしゃるんですよ。なので――」
だが、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、メアは植物園の入り口の脇にある小部屋から何やら名簿を取り出してくると、そのずらっと並んだリストに目を通して、
「今回は私のお仕事を見守っていてくださいませんか? 実のところ今日はそれほどお水をあげなくてはいけない植物さんは多くはありませんから」
と言うと、ニコニコとした笑顔でアリアを見つめた。
「あはは、あー、うん。もちろん」
アリアはそのニコニコとした笑顔に中途半端な笑みを浮かべて返した。
そう、メアはこのように時々誰もが驚くほどの鋭い洞察力を以てして、荒くなりがちな仕事現場の波風を元の済んだ凪のように穏やかな水平線に収めることがあるのだ。
「えっと、じゃあ……とりあえず余計なことはしないようについてくね」
だが、恐らく遠回しに手伝いを断られたものではあるものの、元より体の良い口実として口から出たでまかせだったために、アリアとしてもむしろ好都合である事も事実だった。
アリアはメアの気遣いと笑顔に、なんだかまたいたたまれないような気持ちになったが、今回はテオスの毛皮のコートを汚してしまう心配がなくなったことを喜んでおくべきだと思って自分を納得させた。
「ふふ、はい。では、早速ですが参りましょうか。もし手を借りたい場面があればその都度伝えますから――」
メアは小部屋の隣に備え付けられていた古風なデザインのカートに手を掛けて言った。
カートには様々な園芸用品が几帳面に整理されて並べられ、後部には巻きつけられたホースもしっかりと備え付けられている。
アリアはその多機能なカートの姿に、三年前、彼女とともに訪れたこの場所の朝の日のことを思い出した。
あの時も、ああ、こんな特別な場所でも普通にホースで水やりをするんだ、と漠然と思った記憶がある。
「うん」
アリアはメアの押すカートのコロコロという車輪の音に連れられるように彼女の後を追った。
放射状に広がる植物園の最も外側に当たる緩やかな曲線に沿って、朝の爽やかな日差しと空気を感じながら歩く。
二人が歩く円形の幾何学模様のさらに内側を流れる、神経質に刻まれた白い溝を流れる水路が足音とカートの音に混じってちろちろと音を立てた。
果たしてこの美しい異世界に自分の居場所などあるのだろうか。
よしんばそれらに力づくで押し入ったとして、そこで役割を果たしきることなどできるのだろうか。