第6話 クータスタ
コントラストが生まれた。
透明な白と穏やかな灰。
それが彼女にとって唯一の世界の在り方であり、その色だけが彼女を形作る全てだった。
ぱちぱちと爆ぜるような音が耳朶を焼くように少女の頭の中で暗く響く。
燃え上がるような紅蓮と鮮烈なる赤。
果たして彼女はその暁をどう受け入れれば良いのだろうか。
かつて世界のどこにもなかったその色彩を――
灼熱の余波に触れた白と灰の結晶が、その六花を散らし、解放の喜びに震えながら、少女の足元を通り過ぎる。
その暖かな陽だまりを何故恐れる必要があるのだろうか。
それが作り出すささやかなせせらぎに何故足を掬われなくてはならないのだろうか。
少女は惑い、そして恐れた。
理性を超越した概念が彼女の中を満たし、黒く染める。
何故、それは必要なのだろうか。何故、その色は生まれたのだろうか。そして何故……これほどまでにその熱は痛みを伴うのか。
やがて溶け出した雪が少女の足をさらい、水かさを増した水流が彼女を飲み込んだ。
苦しい、息ができない。
少女は必死に水面に手を伸ばした。
生きていたかった。
それがどれほど苦痛を伴うものだとしても、理解できないものだったとしても、そしてそれ自体に意味が無かったとしても――
だけど――
「はい――僕で良ければ」
少年は言った。
――――……
落ちる、落ちる、落ちてゆく。深い水底に落ちてゆく――
「――――嬉しい……これからよろしくね、エル君」
打ち砕かれた六花の最期のひとひらが、冷たい藍色に溶けて消えた。
苦しみが生を渇望し、それ故に己の生は生の為に苦しみを渇望する。
何故?
苦しみは生と言える。
であるならば何故、それから逃れるように人は生きようとするのだろうか。
少女は耐え切れずに駆け出した。
渦を巻く虚無と矛盾の螺旋。
落ちる、落ちて、水底――
深い深い水底に日の揺らぎは届かない。
――――――…………
――――……
――……