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5-34

 「恋のキューピット……ですか」


 「まあ、そういう事だねー」


 「え?何でこれだけの話でわかるのメイリちゃん」


 「うるせえな、逆に何でわかんねえんだよ、このゲロ朴念仁」


 自分も彼女と同じことを考えていたからとは口が裂けても言えない。


 「まあまあ、わかるものはわかるんだよ。うん、メイちの言う通り、レーたんの目的はエル君とミーちをくっつけること……だと思うんだよね。だぶん……」


 「まあ、レーネさんとミーシャさんの過去、そして今の彼女たちの関係を知れば大体予想は付きますよね……」


 しかし、初めはメイリも別の視点から彼女たちを捉えていた。

 だが、彼女たちの過去を聞き、その一端からレーネの思考回路の一部へと潜り込むことができたとき、それは思った以上に自分と似通っていることに気付いた。


 「まあ、今のミーちを見ていれば当然だよね」

 

 「ええ。この世には幸せになるべき人種というものがあります。ミーシャさんやエルハルト様はたぶんそういった種類の人間です」


 (私とは違って――)


 「故に、そう言った人種の方々の為に世界が流転していくこともままあることではあるでしょう」


 メイリはそう言ってカップに入った生ぬるい液体を飲み干しながら、その暗闇の中に、流転したのちに訪れる彼らの幸福を思い浮かべた。

 舌に触れた苦みが残ってこびりついた。


 リアはそうしたメイリの反応に意味ありげな視線を送って言った。


 「そう、ねー……まあ、前半はその通りかもしれないけど後半はその限りじゃないとは思うけどねー」


 「……」


 しかしメイリはそうしたリアの視線をまるで無かったもののように受け流すと、話題を変え、また別の角度にある本質に触れた。


 「でも、なんとなくですけどそれだけが目的じゃないような気もするんですよね。なんて言うか、レーネさんの覚悟が決まり過ぎているというか……」


 「うーん、どうだろうね。少なくともこの村に帰って来てからのレーたんの行動は全て、彼に対する贖罪の為の時間であると言ってもいいかもしれないからね――ミーシャの様子がおかしくなったのはもっと最近のこと。彼女の計画はミーシャの恋が生まれる前から始まっているはずなんだよ」


 「そう……ですよね。なら、彼女は当初どういう形で彼に贖いを行おうとしていたのでしょう」


 新たな情報に触れたメイリの心が、レーネの深い心の奥にある真理を捉えたような気もしたが、それはあくまでもシミュレーションの中にある仮想の真理である。

 現実に存在していないものを語るわけにはいかない。


 メイリはその真理を心の中にそっとしまった。


 「さあねー、でもレーたんの考えることだから、スケールが大きいと言うか……雑というか……ろくでもないものではあるとは思うよ。ね?クエリっち?」


 「あー、そうね……あの娘が引きこもってしこしこ造っていたものについては僕程度の知識量じゃあ、予測すら難しいものだけど、まあ、ろくでもないものって言うのだけはなんとなくわかるかな」


 なんだかクエリの言葉もどこか投げやりなようだ。


 「そうですか、ではまあ一応は警戒だけはしておきましょう。また屋敷を破壊されてもかなわないですからね」


 もちろん彼らにとっても完全には割り切れない問題であることは間違いないはずだ。

 だがしかし、彼らはその末に静観を選択した。

 それならばメイリからは何も言うべき事は無かった。


 「……リアさん」


 「ん、なにー?」


 全ての演目を聞き終えたメイリは最後に、途中に覚えたささやかな疑問をリアに投げかけてから帰路につくことにした。


 「さっき、良くわかんないけど、良くわかんない力によってエルハルト様が生き返ったって言ってましたけど、それって本当に良くわかんない力、つまり山の神の力だけだったんでしょうか?」


 なぜだろうか。メイリの頭の片隅に、語りかける声があるような気がした。それは彼女自身が良く知っているような声であるのにも関わらず、彼女はそれを特定できなかった。


 「んー?どういうことー?神剣の力に抗えるものなんてそれ以外ありえないんじゃ……」


 しかし、その疑問が解消されることは無かった。

 リアは横目でちらりとクエリの方を見てその答えを問うたが、彼はただ首を横に振って自分自身もその解を持ち合わせていないことを彼女に伝えた。


 「……」


 しばらく耳を澄ませて、先ほどの声をもう一度聞こうとしたが、もうその声はどうやら語り掛けることをやめてしまったようだ。


 「とにかく……これは私が心配するような事でもなかったようですね」


 メイリはしばらく無言でその声に耳を傾けた後に、それほど気にすることでもないと断定して、席を立った。


 「メイち?」


 「お二人とも、お付き合いいただきありがとうございました。このお礼はこの代金をもってかえさせていただきます」


 「えっ?いいの?ラッキー!今月――あ゛いでででで」


 デジャヴ。


 「それではまたよしなに――」


 メイリは机の端の伝票を掴んで彼らに背を向ける。


 「メイち!また何かあったらいつでも話聞くからね!」


 背中からリアの声が聞こえた。


 「ええ、でもご心配ございません。彼女にとってもエルハルト様の幸福は私と同じように望むべきものなのですから――」


 メイリは後ろの声に振り向いて言った。


 彼女もきっと幸福を求めていた。


 


  ――――…………


  ――……


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