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「これが彼らの選択――」
「……!――ミーシャ……」
瓦礫の中で成り行きを見守っていた二人が足下から氷漬けになってゆく勇者の姿に、驚きの表情で言った。確かにこの展開を覚悟してはいたものの、あれだけ圧倒的な力を持っていた彼女がこうもあっさり捕まってしまうとは、その光景を見るまで想像すらついていなかったのである。
「駄目だリア。今行けば君も――」
「どうなるって言うの?」
どうにもならない。たとえ彼女がこの瓦礫を飛び出して渦の中心までたどり着けたとしても、結果に大きな差は生まれないだろう。
渦に潜む魔力は果てしなく膨大だ。そしてそれに紛れ込もうとしているリアの魔力はそれに比べれば遥かに小さい。
故に結果として彼女が死のうが生きようが、膨大な魔力によって彼女自身がどうにかなってしまおうが、出力される最終的な値はほとんど誤差であり、客観的に見てそれはつまり、どうにもならなかったという結果にしか見えないだろう。
「いや……どうにもならない。どうにもならないからこそ、今はそばにいてくれないか」
「……クエリ君」
懲りずにリアの傷口に単純な治癒魔法を掛け続けていたクエリが言った。
「それに今の君の状態じゃあ、息をするだけでも苦しいはずだ。わざわざ最後の瞬間まで苦しむ必要はないだろう?」
「でも、まだ――」
「どうしてだリア」
彼の口調は静かだった。
「……」
「どうして彼女を終わらせてやろうとしない」
クエリの肩口から垂れた鮮血が指先からぽたりと落ちた。
「……まだ使命は終わっていない」
「いや、もうここが終点だよリア……彼女が膝をついたのならそれが答えだ」
遠くに見える彼女の表情は濃密な魔力の澱に遮られて判然としない。
「もう苦しむ必要はない。君だって望んでいたはずだ、この瞬間を……それにきっと彼女だって――」
「そう……ね」
だけど、その表情が穏やかなものであることをなぜかリアは確信していた。
「もう答えは出た……あれは本物の神だ――だから休もう、リア。ここが俺たちの終着点だ」
微睡み――人に与えられた最も幸福な時間。
もう限界はとうに超えていた。
リアは頷くとその言葉に誘われるように幸福に落ちていった。
痛みも悲しみも存在しない世界――
目を閉じると全ての感覚が遮断された。
――――……