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「いい加減……倒れて――」
取り囲む白の化身の一人が言った。
圧縮され、時空が歪むほどの長い長い打ち合いの果てに、ついに耐え切れなくなった少女は、口の端からそう言葉を漏らした。
「……!――驚いた。君、もしかして意識があるの?てっきりその力に乗っ取られているものだと思っていたけど」
白の化身がついに漏らしたその独白に勇者は心底驚いたように言った。
「……――――」
もしかしたら少女はそんな勇者と言葉を交わしたくないばかりにそうした演技をしていたのかもしれなかった。
「なら、ちょうどいいや。もう一度交渉しましょう。この状態なら私はあなたの事を見ることができない。さっきより公平だと思うけど?」
勇者が彼女の出した氷晶のイミテーションの一人を砕きながら言った。
勇者はその居並ぶイミテーションから未だに彼女の本性を見破れずにいた。
「だから、いやだった……」
地面からせり上がった氷柱が勇者の足先を貫いた。しかし彼女は顔色一つ変えずに突き刺さったままの足を蹴り上げて、それを粉々に砕いた。
蹴り上げた足が、数多ある白のイミテーションの一つに当たって、それを見た他の白の化身の表情が一斉に歪んだ。
嫌だったというのはつまりそういう事で間違いなさそうだった。
「何が嫌なの?君も心の中ではこの戦いに意味が無いことに気付いているはず」
「そんなことない……むしろ――」
勇者のすぐそばまで迫った銀の人型が、手に持った大剣の腹でしかと勇者の顔面を捉えて飛ばし、飛ばされた先に待ち構えたもう一人の人型が勇者の鳩尾をその長い槍で貫いた。
「ぐっ――……!」
「今の私にはわかる。あなたこそ、この抵抗がなんの意味の無いものだと気づき始めてる……」
「――――……」
勇者は自らの腹部から飛び出した氷晶の槍をその根元からへし折ると、それを持って後ろの人型を殴りつけ、手に持った槍ごとそのオブジェを粉砕した。
「私にはわかる」
少女はもう一度言った。
降り立ったミーシャを待ち構えるように地面から無数の手が生えて彼女の踝を掴んだ。
「私にわかるなら、あなたにもわかる。それが真実でしょ?」
その言葉を聞いたミーシャの目が大きく見開き、何かを悟ったように大きく息を吐いた。
立ち上がる白い息が儚く氷晶の中に消えた。
どうやら嫌な時間ももうそろそろ終わりの時間に近づいているようだ。解放によってもたらされる、少女の内からにじみ出る歓喜が、周囲を漂う不可視のエネルギーに共鳴し、踊るように脈動した。
――――……