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玲瓏館当主エルハルト・フォン・シュヴァルツベルクの華麗なるわからせ美学  作者: 柴石 貴初


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 「お姉さま………?よろしいので――――」


 「じゃーあ、善は急げだー!クエリっち!例の魔法を!」


 「善………?あ、ああ!仕方ないなー、これは人助けだからなー、本当はこんなことしたくないのになー、ミーシャ今助けてやるからな!!」


 なんだか神妙な雰囲気を放っていたリアを、ぼけーと眺めていたクエリはリアの合図を聞くと、流石の瞬発力で秘蔵の“盗聴魔法”を信じられない速度で詠唱して、窓際の二人ではなく、盗聴を試みようとする自分を含む共犯者四人に掛けた。


 「うわっ何ですかこれ!私はともかく、メアは含めないでください!!」


 「まーまー、メアちゃんも気になるよね?」


 「えーと、その、はい………?」


 「出来るだけあの二人に集中してー。そうすれば聞こえてくるはずだからー」


 どうやらクエリの使用した魔法は掛けられた者の聴覚を強化する種類のものであるようだった。そして、どういうことか強化された聴覚は指向性を持って、意識を集中した場所の音声がクリアに聞こえてくる、非常にハイテクな魔法だった。


 「これってたぶんあの娘の作った魔法ですよね?そういえば今日は彼女は一緒じゃないんですか?」


 「ああ………まあ、今日はちょっと体調悪いみたいでさー………あー、その、まあ、察してよ」


 「え?ああ………はい」


 勇者パーティにはもう一人、魔術師の少女がいたはずだ。そして彼女はミーシャを非常に慕っていた。


 「しっ、喋りそうだぞ」


 ――――――……

 

 『あの、エル君………さん………?』


 『どうした?』


 『きょ、今日は良いお天気ですね』


 『ああ、そうだな』


 『最近暖かくて……その……良い気分ですね?』


 『ああ、春だからな』


 『えーと……あの、その………あっ、ご趣味は何ですか?』


 『ダンジョン経営だ』


 ――――――……


 「「「「………………」」」」


 一時皆が集うテーブルは凪のような静けさに包まれ、その思った以上に深刻な事態に、誰もが口を噤み、これから自分がどのような態度でこれらの事態に向き合えばいいのか、必死に思考を巡らせる必要があった。

 

 「…………あーあれってエル君の趣味だったんだー」


 「いや、そうじゃないでしょ!!なんだよこれ!今日初めて会ったのこいつらは!?ていうかたぶん今時お見合いでもこんな会話しないよ!!」


 「どうしたんでしょうエルハルト様………ミーシャ様とはあんなに仲がよろしかったのに」


 「…………」


 しかし、聞こえてくる二人の会話に盗聴者たちのメンタルがどれほど乱されようと、彼女たちの地獄デートは終わってくれない。


 ――――――……


 『あ、あのエル君………?』


 『ん、どうした?』


 『えーと、その――――あっすいません!もう一杯コーヒーお代わりで!あ、はいブレンドで』


 ――――――……


 「いや、コーヒー飲みすぎだろ。夜寝られなくなるぞ」


 「あはは………普通の人だったら病院行きだねーこの量は」


 「限定パフェもあんなに美味しかったのに全然手を付けていらっしゃらないなんて………」


 「…………」


 ――――――……


 『それ……』


 『ひゃい!!な、な、なに?』


 『食わないのか?それ、食べたかったんだろ』


 『あ……そうだよ、そうだよね!食べなきゃね!』


 ――――――……


 「いや、今度は食べすぎだろ。お腹痛くなるぞ』


 「あはは……これじゃあエル君の分なくなっちゃうよー」


 「さすがに、あのパフェを独り占めするのはどうかと思いますよ!ミーシャ様!」


 「…………」


 ――――――……


 『あの、そのごめんね、なんか何話せばいいかわかんなくなっちゃって……』


 『いいや、いい。僕の方こそすまなかった。ゆっくり一つずつ話せ』


 『え、エル君…………!じゃ、じゃあ……その、ね……ご、ごめん……その、もう少し待って――――』


 『ああ、ゆっくりでいい。ゆっくり深呼吸して、心が落ち着くのを待つんだ』


 ――――――……


 「いや、なんかおかしくない?職場のカウンセリングみたいになってない?深刻な悩みを持つ部下の話を聞く上司みたいな!」


 「あはは、その前にミーち、そのクリームまみれの顔何とかしよう?」


 「ああ!あのクリーム、拭いて差し上げたいです!せっかく綺麗なお召し物ですのにあれじゃあ――――ああ!クリームが服にっ!!」


 「…………」


 ――――――……

 

 『あの、エル君………さん………?』


 『どうした?』


 『あの、その………あっ、ご趣味は何ですか?』


 『ダンジョン経営だ』


 ――――――……


 「あれっ?ループしてる?え……?無限ループって怖くね?」


 「あはは、エル君も根気強いね……玲瓏館は案外良い職場なのかも……」


 「はい!エルハルト様はすっごくお優しくて、よくああやって皆さんの悩みを聞いてらっしゃるんですよ!」


 「…………」


 ――――――……


 『あ、あのエル君………?』


 『ん、どうした?』


 『えーと、その――――あっすいません!もう一杯コーヒーお代わりで!ってええ!?メ――――さん!?』


 ――――――……


 「あれ?あいつ何やってんだ!」


 「あはは……メイち我慢できなくなっちゃったか……」


 「お姉さま……!?」


 気付けばメイリは席を立って、エルハルトに悟られぬよう店員を装ってテーブルに近づき、ミーシャの腕をひっつかまえて、彼女を店の暗がりへと押し込んでいた。


 『しっ―――黙って。エルハルト様にバレてしまいます――――』


 『ど、どうしてメイリさんがここに……!?』


 『そんな事どうでもいい!!』


 『ひゃ、ひゃい!』


 『とにかく!――――もっと気合をお入れくださいませ。あなたは勇者でしょ?』


 『え?今はそんな事関係な――』


 『つべこべ言わない!』


 『ひゃ、ひゃい!』


 『――――――……』


 『…………メイリ、さん……?』


 『――――……いつもは真っすぐで素直なあなたが……』

 

 『…………』


 『――――何故今は素直になれないのです?……ありのままのあなたで良いんです。あなたならきっとエルハルト様は受け入れてくれる……』


 『…………!!』


 『あなたなら大丈夫です。あなたならエルハルト様を…………だから気合をお入れくださいませ勇者様――――』


 ――――――……


 「メイち……」


 「ええ……?なにこれ?てかあんな物陰のひそひそ話も聞こえるって、この魔法やばくねえか?それよりあの制服どうやって用意したのよ。すげえよ、なんか普通にバレてなさそうだよ」


 「ええ、お姉さまはすごいんです!かっこいいです!」


 ――――――……


 『ごめんね、戻ったよ』


 『さすがに怒られたか。ちょっと飲みすぎたな』


 『え……?あ、うん。次から気を付けなくちゃね――――って、そうじゃなくて…………!』


 『ん?』


 『その、あのね……私ね――――』


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