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ルーファの救済  作者: リリアナ佐助
2章
32/44

31 悪夢 ペリシアン視点


 鱗がぱらぱらと頬に落ちてくる。光のない場所でも青く鈍く光る、宝石のような鱗だ。それがただぱらぱらと頬に落ちてくる。



 それを手で払ってしまいたいが、身体が思うように動いてくれない。動かせない。恐怖で身体が硬直し、それどころではないからだ。



 金色の蛇の目が暗闇からこちらを見下ろしている。


 その目を持つ蛇は、群青色の大きく太い体を天井からぶら下げて私をただ見下ろしている。成人男性を優に吞み込んでしまえそうなほどの巨体。大蛇というより龍と表現した方がしっくりくる。


 その大蛇の放つ殺気に息が詰まりそうになる。張り詰めた空気、浅い呼吸、深い憎悪がとぐろを巻いている。


 そいつがゆったりと動くと再び鱗がぱらぱらと落ちてきた。あまりの量に目を瞑ると鋭い威嚇音が頭上でした。逃げるなと怒っているかのようだった。再び目を開き、その金色の目を受け入れた。



 黒く細長い瞳孔を見ながら、時が過ぎるのを静かに待ち続ければ目は覚める。金色の目が暗闇の中でゆっくりと後退していき、私を少しずつ手放していく。周囲の景色が淡くぼやけていけば恐怖の時間はもう終わり。私は再び日常に戻り、ペリシアンとして一日を始める。






 身体を起こすと全身汗をかいていた。酷い汗だ。数年前に高熱で数日寝込んだことがあるが、その時以上に汗をかいている気がする。ベッドサイドに吊るしていた布を手に取り身体を軽く拭く。湯浴みをした方がよさそうだ。ベルを手に取り、使用人を呼ぶ。


 いつからかは記憶にないが、最近酷い夢を見るようになった。毎晩同じ内容だ。暗闇から大蛇が私を見つめ続けるというもの。襲われるようなことは一切ないが、夢の中では恐怖で身が竦んでいる。素手でもいいから抗えばよいのにと思いはするが、それは夢からさめている今だから言えること。夢の中では情けないほどに己が弱い。


「これが次期騎士団長だなんて聞いて呆れる」


 失望に息を吐く。鍛え直さなければ。夢すら打ち砕けるよう身体と精神の両方を鍛えなければ。

 戸を叩く使用人に声をかけ部屋に通す。湯浴みをする旨を伝え、自分の支度を始める。


 今日は帝国騎士団の第1隊、第2隊の合同訓練がある。早めに出て第1隊の隊長と訓練内容について最終確認をしておきたい。


「ペリシアン様、ウェロー様がいらっしゃっております。客間にお通ししております」

「ジャリスは早いな。あいつは一体いつ眠っているんだ。昨日は夜中に解散したはずだが」

「騎士団の宿舎には戻られていないようですよ」

「また陛下からの(めい)か……忙しいな」

「ええ」


 ジャリスは2年ほど前から第2隊に所属している騎士だ。ベイリー領の東部に位置する村の出身で、数年前に村を救った騎士団に憧れて入団した経緯がある。


 実力は隊員の中でも抜きん出ており、特に剣術は目を見張るものがある。隊長である私に次いでの実力者だ。出自と若さのせいで役職はまだついていないが、もう数年耐えれば間違いなく大きく昇級するであろう。陛下もジャリスに期待しているのか名指しで任務を依頼することがあった。


 とても優秀な男なのだが、不思議なことに私自身ジャリスの事はあまりよく知らなかった。言葉を交わすことも多く、何度か同じ任務に就いたこともあるはずなのに、何を話したのか、どんな印象を受けたのか全く記憶に残っていない。霧の中を見通そうとしているような気持ちになってくる。会ってしまえばこういう男だったと思い出すこともあるのだが……不思議なこともあるのだ。


 視線を感じて窓に目を向けると、蛇がいた。新緑の鱗を持つ小さな蛇だ。窓の外にある木をゆっくりと登っている。夢を思い出して背中から汗が噴き出すのを感じた。夢から覚めているのに情けない。手に持つ布で首の裏の汗を拭った。


「ペリシアン様、顔色が優れないようですが、先生を呼びましょうか?」

「いや、大丈夫だ。深く眠れていないだけだ。心配をかけてしまうとは、私もまだまだだな」

「そんなことは決して」


 使用人が心配そうな表情をした。

 見て分かるほどに今日の私は体調が良くないように見えるのか。このままだと部下に心配をかけてしまうだろう。あまり気は進まないが、今日はなるべく早めに仕事を終えて帰宅した方がいいのかもしれない。


 ふと、3年前の交流会を思い出す。アルデルファ様が私の目の不調を察して人目のつかないところに連れ出してくださった。幼いながらも私の手を引きながら必死に自分にできることをされていた。思い返すたびに胸の内に淡い温かさをくれる思い出だ。少しだけ元気づけられる。


「――っ」

「ペリシアン様!」


 頭を砕くような痛みが走った。まただ。またこの頭痛だ。


 圧迫するように目を手のひらで強く押す。少しだけ楽になれる気がするが、気休め程度だ。じっとしていられないほどの頭痛が最近多い。主治医曰く休めていないからだろうとのことだ。夜さえきちんと眠ることができれば回復するのに。


「申し訳ないが、温かいタオルを頼む。あとジャリスには先に行くように伝えてくれるだろうか。お詫びに食事は奢ることも伝えて欲しい」

「かしこまりました」


 使用人達は慌てながらも冷静に対処をしてくれる。それを見て、自分が次期当主になり得るだけの人物なのだろうかと不安になってくる。この話はきっと父上にも伝わるのだろう。きっと使用人達もやはり兄が適任なのだと思うだろうか。父上の表情を想像するだけでも具合が悪くなる。


 3年前の交流会と同様に、この状況から抜け出すことができたならどんなに良いものか。ついどうしようもないことを願ってしまう。


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