表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーファの救済  作者: リリアナ佐助
2章
31/44

30 蘇生術


 ペリシアンを始めとする帝国騎士の護衛に皇城前で見送られ、私と兄はベイリー家への帰路についた。


「ルーファ、早速ではあるけれど、陛下とどんな話をしたの?」


 馬車に入り、皇城の前から離れるや否や、兄にそう訊ねられた。馬車が皇城を離れるまで兄は落ち着かない様子だった。焦っているのが分かる。


 ゴライア人を祖とする人間を服従させることができる皇帝の力については……話せないだろう。話せば処刑されたりするのだろうか。こんな機密情報とも言える内容、兄はきっと知らないだろう。


 私の事で家族には隠し事をしたくない――それは3年前のソウマの誘拐事件の時に強く感じたことだ。だから、転生の件を含め家族にはすべて話している。けれど、皇帝の力に関しては、隠し事レベルの話ではない。


 服従の力がどの程度まで私に影響を与えるのかは知らない。もし皇帝が私のいない場で、私が口を滑らせれば自害するように命じていたとしたら……そう想像して身体がぶるりと震えた。とんでもない情報を聞いてしまった。皇帝の持つ力に関して深く語られなかったのも力の影響範囲を伏せておくためだろう。

 溜息を吐きたくなる気持ちを抑えながら何とか表情を崩さないように気を付けた。


「私の婚姻の話をしました。陛下からは私とソウマ様の婚姻を強く希望する旨のお話がありました」

「陛下、そのようなことを……怖かっただろう、ルーファ。一人にさせてごめん」


 向かいに座っていた兄が私の隣に座った。そのままゆっくり優しく背中を撫でてくれる。その手つきに身体から力が抜けていくのを感じる。ここはベイリー家の人間しかいない空間だ。ようやく安心できる。


「お兄様が謝る必要はございません。陛下にあのように言われてしまっては二人になるしかありませんでしたから」

「でもルーファはまだ8歳だ。それなのにあんまりだ。このことは父上にしっかりと伝えるつもりだ」

「はい……ありがとうございます」


 いつもは穏やかな兄の声が怒気を孕んでいた。呼吸が浅く、声が低い。ここまで怒っている兄を見るのは初めてかもしれない。


「思い出すのも嫌だろうけれど、このまま話を続けても大丈夫かな? 屋敷に着いてからにしようか?」

「いえ、私は大丈夫です。恐ろしくはありましたが、語れないほどではありません。それに助けがありましたから」

「助け?」

「はい」


 兄は不思議そうに首を傾げた。


「陛下からは希望を伝えられ、その上で婚姻に関して私の考えを教えて欲しいと言われました。陛下へどうお答えしようと考えていた時にちょうどウェロー様が現れ、話はそこまでとなりました」

「ウェロー殿が? 陛下は人を入れるなと命じられていたはずだけど」

「火急の用があるということで話は中断されました。陛下も私が戻ることを許可されて今に至ります」

「そうだったのか。ウェロー殿とその火急の用というものに助けられたんだね。よかった」


 兄は心から安心したかのように息を吐いた。私の背に触れている手が震えている。兄も私と同様に恐ろしい思いをしたのだ。


「そのウェロー様、認識阻害の術を使っていたソウマ様でした」

「へ!? ソウマ君?全然気が付かなかった……何だか顔を覚えられない人だなとは思ってはいたけれど、あれが認識阻害の術なんだ。普段はあんな感じで皇城で働いているんだね。案外気が付かないものだね」


 兄は「そうか」と何度か呟くように繰り返し、小さく頷いた。その目元は安堵しているように見えた。


「ソウマ君にお礼を伝えないといけないね。いつもルーファを守ってくれているけれど、今回は特に助かった。ルーファが陛下に何かを約束せざるを得ない状況にならなくて……本当によかった」


 兄はそう言って柔らかく笑った。

 ここまで私を想ってくれていることに深い愛を感じる。けれど、私の決断の遅さが兄の恐怖を招いているのだと今日のことで理解した。


 ソウマと出会って3年以上経っているのにも関わらず、私は具体的なことは何も口にしていない。それに痺れを切らしたから皇帝が私に話をするのに至ったのだ。これからも今回のようなことが何回も起きる。私が決断しない限り、何度も何度も。




「ルーファ、陛下と二人きりの時、蘇生術に関して何か陛下から言われたりしたかい?」


 考え込んでいると兄にそう訊ねられた。皇帝の力の話と私の婚姻の話くらいで、特に蘇生術の話はなかったはず。「特には」と首を振ると兄は安心したように頷いた。


「蘇生術に関する話が出たらすぐ僕か父上に言うんだよ」

「はい」


 蘇生術はものにするのが難しく、また、蘇生術を学ぶには国の許可を得なければならない。現時点で蘇生術を学ぶことを許されている人間は4人――父と母、兄とベイリー家専属の治癒術師テレンス先生のみだ。


 母は適性がなくほとんど蘇生術が扱えない、父とテレンス先生は会得していると言い切れるほど術を扱えないが使用はできる程度、兄は会得できており自在に扱えるといった具合だ。小説通りに進むのならば、もうとっくに私も学ぶことを許されている頃だけれど……。小説内では母と同じく適性がなかったはず。だから蘇生術を扱えるかについては正直期待はしていないが、私に対して蘇生術を学ぶ話が少しも出ないのは気になる。


 小説ではどのような流れで話が出ていただろうか。そこ辺りは詳しく覚えていない。最近は小説の記憶が曖昧になることも多いから。


 でも、ふと引っかかった。よく分からないけれど、兄の様子が気になった。私の婚姻の話よりも、蘇生術の話が出なかったことに深く安心していたような様子だった……そんな印象を受けた。気のせいと言われればそうかもしれないし、だから何だという話だ。ただ、少し、ほんの少しだけ心の中で何かが引っかかった。


 私の知らない何かがある、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ