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ルーファの救済  作者: リリアナ佐助
2章
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25 デゼスへの新たな対処法


「ルーファ、大丈夫かい?」


 そう声をかけられて、はっとした。慌てて顔を上げると父が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

 ここはベイリー家の研究室で、今日は朝から父や兄と研究室に籠っていた。デゼスに対抗するための魔法の実験を行っており、その実験に関する会議の中でぼうっとしてしまっていた。大事な話をしている最中なのに。考え事を頭の隅に追いやって慌てて口を開く。


「申し訳ございません。私は大丈夫です」

「本当かい? 浮かない顔をしていたけれど……ソウマ君のことかい?」

「えっ、ソウマ様」

「当たりみたいだね」


 言い当てられて動揺する。そんなに私は分かりやすいのだろうか。申し訳なくなって俯くと、父が私の頭を撫でた。


「ソウマ君は帰国準備のためにベイリー家を空けることが多くなったからね。会いづらくなってしまったね」

「はい。今まで毎日会えていたので」


 ソウマがムスビ家に戻る事を教えてくれてからソウマに会う時間がほとんど無くなってしまった。父曰く、最終調整をするために皇城にいることが多いらしい。今までどんなに忙しくてもソウマは私と会う時間を作ってくれていたけれど、その暇もないらしく会えない日々が続いている。私の方からも何度かソウマの部屋を訪ねてみたけれど、ずっと不在で会えていない。


 避けられているのか、単純に本当に忙しいのかが分からない。今まで何としても会いに来てくれていたから。一緒に過ごせていた時間は貴重なものだったのだ。



『早く僕のところまで落ちてきて、ルーファ』


 そう苦し気に言っていたソウマを思い出す。私はソウマから離れるつもりはないと伝えているのに私の自由を奪うことにソウマは苦しんでいた。


 私がソウマから離れるつもりがない気持ちは3年前から変わらない。けれど、ソウマはそれだけでは足りない。ソウマがほしいのは私からの愛だ。ソウマが持つ気持ちと同じ大きさの私からの愛を欲している。


 ソウマが私の愛を求めていることを知ってはいる。けれど、私がその愛に応えることでソウマは本当に幸せになれるのかと考えるようになっていた。ソウマが私に求めている愛は、果たして純粋に異性に求める愛の類なのだろうか、と。


 ソウマはまだ13歳で、3年前にあれだけ強烈な経験をした。周囲の人間を信じることができない中で唯一助けてくれる人が現れ、ほぼベイリー家以外の人間に会えない環境に3年身を置いた。助けてくれた人以外を好きになる選択肢がなかった。小さな箱に閉じ込めてしまっているが故に私がソウマの選択を狭めているのではないかと思う。ムスビ家に戻れば世界が広がる。ソウマにとっての幸せな愛が別に見つかるかもしれない。


 そこまで考えて胸が痛んだ。胸の奥がちりちりと焼けるようだ。ここまで理性で考えることができているのに、心が伴わないことが不快で仕方ない。



「ソウマ様の人生にとって大切な時期です。寂しくはありますが、私は今は見守って応援したいです」

「本当にそうかい?」

「はい。ご心配をおかけしてすみませんでした。『代替免疫操作術』の現段階での問題点のお話でしたよね」

「うん。そうだね」


 わざとらしいくらいに話を変えてしまったけれど、私の気持ちを尊重してか父はソウマの話に戻すことなく受け入れてくれた。私の気持ちよりも、今はこの『代替免疫操作術』の開発に集中すべきタイミングだ。


 代替免疫操作術とは、簡単に言うと身体の免疫機能の役割を魔力もしくは妖力が代わりに行うように力をコントロールする治癒術の一つだ。この魔法はデゼスに対抗するために私が提案した魔法だ。


 デゼスの特効薬は、特殊な方法で加工されたローズベリーとスローパー家に代々伝わる秘伝の薬を掛け合わせて作る必要がある。


 ただ、この秘伝の薬を父の力を以てしても手に入れることができなかった。私が未来に起こる出来事を知ることができるのを家族以外は知らない。よって、まだ感染者すら報告されていない感染症への薬を開発するため――と言うわけにもいかず、治療行為のためとそれらしい理由をつけて父が皇帝にお願いをしてくれたのだけれど、秘伝の薬を貰うのに相応しい理由がないとして却下されてしまった。薬の調合方法によっては、人間のみならず魔物すら殺す劇薬にもなり得るため、滅多なことでは利用を許可できないとのことだった。


 それを聞いて、ある考えに至った。


 3年前、ソウマが誘拐された時、ソウマの身体の中には魔物のようなものがいた。ソウマの妖力と私の魔力を食べていたことからも私はあれがデゼス菌だったと考えている。あの魔物のようなものは私からソウマに注いだ妖力によって消滅した。


 秘伝の薬の利用が断られた理由を聞いて、デゼスは病原菌ではなく、魔物なのかもしれない。そう思ったのだ。

 体内に侵入した魔物であるデゼスを撃破することを考えれば秘伝の薬がなくとも何とかできるのではないかとの考えに至った。


 恐らく『破滅のアデル』で開発されたデゼスの特効薬は、ローズベリーは失われた魔力もしくは妖力の回復の役割を持ち、秘伝の薬はローズベリーとうまく調合することで魔物のみを殺す毒となるように作られていたのかもしれない。


 私の考えを父と兄に話したところ、デゼスを殺す魔法を開発するように動こうとの話となり今に至る。


 デゼスに感染した際に代替免疫操作術をかけることで、体内の魔力および妖力がデゼスを撃破するように働いてくれるのが理想だ。魔力および妖力を操作することへの人体への影響の検証や、魔力や妖力が操作するだけの量がない場合の魔法の構築方法等、考えることは色々あるけれど、まずこの魔法が有効かどうかを確認するためにサンプルとなるデゼスを手に入れる必要がある。


 今はデゼスを手に入れるためにベイリー家の偵察隊が動いてくれていて情報待ちだ。

 小説の世界ではあと2年後にデゼスが流行する。それまでに何とかこの魔法を完成させなければならない。


「魔力や妖力の操作は術式上問題はなさそうです。一般的な治癒術の応用程度のもので、術の難度も高くないものになるでしょう。問題は服用することになる薬と術の組み合わせですね。魔力量の増加に関しては問題ないのですが、妖力がなかなか難しいですね」


 兄が父に説明をしながら困ったように頭を掻いた。それに対して父も難しい顔で頷く。代替免疫操作術はデゼス撃破のために魔力や妖力をコントロールする魔法だ。それとは別に、感染者の魔力や妖力を確保するためには、薬で魔力や妖力を増加させる必要がある。魔法が発動していると薬の効能が弱くなる問題が発生しており、今はその対処法について話をしている。


「何が問題だろうね。ルーファが完成させてくれたローズベリーの薬はソウマ君の妖力をたしかに増加させたのに、術との掛け合わせるとなると途端に効能がなくなってしまう。術式の組み方かな、あるいは、体質への考慮が足りてないかな」

「もう少しイチカ先生とスイレン先生、あとできればソウマ君の遺伝情報を集めてみます」

「そうだね。イヅル人の偵察隊の何人かがレイ帝国に戻る予定があるし、彼らが同意すればそこからも情報を集めてみようか」

「分かりました」


 兄が専属の従者を呼び、父と予定を調整する話を始める。


 二人の真剣な眼差しを見ていると未だに信じられない気持ちになることがある。私の前世の話や未来で起こるかもしれない未来の話を信じてくれて、真剣に向き合ってくれている。公務や屋敷での仕事もあるのにこうやって時間を割いてくれるのだ。私を信じてくれている。それが温かくて、嬉しくて、愛されているのだと実感する。


 この3年でローズベリーの薬を完成させることができた。デゼスへの特効薬のため、魔力や妖力の回復が見込める薬の開発を目指していたけれど、秘伝の薬との組み合わせではなく、魔力や妖力を使ってデゼスを撃破する目的を考えると回復の効能だけでは足りないことに気が付いた。


 回復だけだと、そもそも生まれながら魔力や妖力がない人達を助けることができない。デゼスを退けるだけの魔力と妖力を確保するためにも増加の効能が必要だった。

 ローズベリーに対して治癒術をかけるだけでは効能をうまく引き出せなかったことから、ローズベリーの栽培や生産工程を見直すことによって回復の効能だけではなく、魔力や妖力の増加の効能まで得ることができた。


「それにしても、何度だって言うがルーファのローズベリーの薬は凄いね。魔力や妖力を増加する薬ができるなんて……皇帝陛下から承認が下りれば世の魔導管炎損病を患っている人達が補給機いらずになる」

「ええ。自慢の妹です。それに、ローズベリーの薬の販売権を補給機販売者に譲渡したいという話を聞いた時はすごく驚きました」


 話が終わったかと思えば急に二人とも私を褒め出した。いつもそうだ。何でもない時に突然私を褒め出す。いつも心の準備ができていない時に仕掛けられるものだから、私はどうしていいか分からずに動揺する。今だって耳が熱くなっていくのが分かる。


「薬はお兄様がいなければ完成しなかったものです。それにこの薬は誰かを助けるもので、誰かの職を奪うものにしたくはありませんから」

「ローズベリーの効能を正しく把握していたのはルーファだし、魔力不足の僕に代わって効能を引き出す操作をしたのもルーファでしょう。ルーファの薬のおかげで魔力があまりなかった僕でも公務が不足なくできてる」


 兄が優しく私に笑いかけてくれた。

 この短期間で薬を開発できたのは、この世界に魔法が存在しているのと、ベイリー家の全員が研究にとても協力的だったからだ。兄がいなければローズベリーの成分の動きは把握できなかったし、父と母が土地や研究費用を惜しむことなく与えてくれたから迅速に研究が進められた。それにベイリー家専属の薬物研究士からの協力も大きい。みんなが私を助けてくれた。決して私だけで成し得たことではない。


「皇帝陛下もルーファが中心となって薬を開発していると知って驚かれていたよ。もし薬として国で承認されれば、ルーファとイファデールの二人と話がしたいと仰っていたよ」

「えっ」


 皇帝が私と話を? 急な話で思わず息が詰まる。それに、薬の開発は私だけの力ではない。心臓がばくばくしている。公爵家である以上、いつかは皇帝と会うことになるとは思っていたけれど、想像よりも早く会うことになりそうだ。


 皇帝はソウマをベイリー家で保護することを許しつつも、イヅル国を偵察するためにソウマを利用する一面を持つ人。小説でも登場シーンがほとんどなかった人物だから不安だ。


「私だけの力で成し遂げたことではないのに恐縮です」

「関わった人々全員とお話ができるわけではないからね。薬の開発の代表として陛下と話をすると思えばいいのではないかな」

「そうだよ。僕もついているから、きっと大丈夫だよ」


 兄の眩しい笑顔に何も言えなくなった。皇帝が私と話をしたいと言っているのだから、よっぽどの理由がない限り断ることは難しいだろう。前世の会社員時代を思い出して胃が痛む。厄介な取引先との会議前もこうだったな。これほどの重圧をソウマは耐えていて、かつ、一人での謁見時に皇帝に意見も言えてしまうのか。尊敬する。


「お兄様に頼ることになるかもしれませんが、その日が来たら頑張ります」

「うん。遠慮なく頼ってね」


 兄の笑顔に心を落ち着けながら胸元のペンダントに触れた。研究室にいる時はここにセツがいてくれている。触れたところが温かい。きっとセツも私を励まそうとしてくれているのだろう。


 窓に目を向けると、木にぶら下がっていた蛇と目が合った。その蛇は驚いて木の葉に隠れてしまう様子を見せる。ソウマの使い魔だ。見守ってくれてはいるのだ。そのことに何となく安堵しつつ、本人には会えない事を思い出してしまい複雑な気持ちになった。


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