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ルーファの救済  作者: リリアナ佐助
2章
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23 婚約者候補の申し入れ

「私……ですか。ソウマ様はこのことをご存知なのですか?」

「知っているよ。今日の謁見でも皇帝陛下に意見を述べると思う」

「そうですか」


 3年前の交流会では、私をずっと見ていたという理由でソウマが認識阻害の術をペリシアンにかけていた。婚約者候補の申し入れがあったと聞いたら、どう反応するだろうか。


 ここ3年のソウマを見ていると、衝動的に相手に何かをすることはないと思う。ソウマも3年前に、問題を起こさないように全力を尽くすと言ってくれた。その言葉に嘘がある様子はなかったし、私はソウマを信じている。


 ソウマはこの3年、自分の心と必死に戦ってきた。私達と一緒に住み始めた当初は、師匠や両親に裏切られたこと、使い魔のムギを失ったことで不安定になることが多かった。でも、毎日立ち直れるように頑張っていた。必ずムスビ家の当主になって、守りたいものを守るのだと私に何度も言っていた。その努力を自分自身で裏切るようなことを今のソウマはきっとしない。


「でも、とても不思議です。なぜ今ペリシアン様の婚約者候補の申し入れがあるのでしょう。年齢的にもフレデリック様から申し入れがあるのが自然なように思います」


 フレデリックは今は18歳だ。年齢的に相手を探さなければならないのはフレデリックの方だ。それなのに何故ペリシアンが婚約者候補の申し入れをしたのか。小説の強制力によるものだろうか。


「ルーファは冷静だね。そうだね。フレデリック様からの申し入れがあるのが自然だ。でも、実はペリシアン様が次期当主の座につくという話が出ている。ペリシアン様の魔力と剣術の成長が凄くてね。フレデリック様も相当力のある方ではあるのだけど、それを遥かに上回るみたい。だから次期当主の婚約者候補として皇帝陛下に申し入れをしている」

「そういうことだったのですね」


 ペリシアンの成長が凄いことは父から聞いていた。小説の中でも失明してしまってもソウマと互角に戦えるほどまでに成長していたから、強くなるのだろうとは思っていた。でも、次期当主になる話が出るなんて。そんなこと小説でもなかったことなのに。


「陛下は申し入れをどうされるつもりでしょうか」

「了承されるおつもりだと聞いているよ。ソウマ君は今のところ行方不明という扱いになっているし、帝国内では婚約者候補は何人いても問題ないとされているから、陛下は断る理由がないんだ。いくら陛下と言えど、公爵家の申し入れを相応の理由なく断ることはできないからね」


 婚約者候補の申し入れは皇帝が断らなければ成立する。婚約者候補の関係は本人達が拒絶すれば解消することはできるけれど、すぐにはどうこうできない。相手の家との話し合いを重ねて、双方が合意することで初めて婚約者候補の関係を取り消すことができる。一方が婚約してしまえば取り消せてしまう関係であることからも、わざわざ婚約者候補の段階で関係を解消するための話し合いを進める家は少ない。

 私とソウマの関係も取り消そうと思えば取り消せるけれど、現状ベイリー家にその気がないというのと、皇帝が希望した縁談ということもあって関係は続いている。


 ペリシアンの件は、あくまで婚約者候補だから、そこまで恐ろしく思う必要はないのだけれど、私達にとっては問題だ。ソウマは奪われることに恐怖心がある。

 レイ帝国では10歳になれば婚約が許される。私があと2年で10歳になるこの時期に婚約者候補の申し入れがあるということは、相手は結婚にかなり積極的だと言える。ソウマがかなり嫌がりそうだ。



「ソウマ様の心が心配です」

「ルーファ様はやはりお優しいですね」


 今この場にはいないはずの人の声がして、はっと顔を上げると私の傍にソウマが立っていた。いつもは凛々しい目が、今は優し気に垂れていて私を見ていた。

 ソウマが皇帝の謁見から帰って来たのだ。


「ソウマ様、おかえりなさいませ」

「ただいま、ルーファ様」

「着替えずにこちらまで転移されたのですか?」

「はい。早く会いたくて」


 私にしか聞こえないような消え入りそうな声でソウマはそう答えた。


 ソウマは登城する際、身を隠すためにいつも帝国騎士の訓練用の制服を身に纏っている。真っ黒でぱりっとした制服はソウマによく似合っていて私は好きなのだけれど、「ルーファ様を欺いているような気がするから」といった理由でソウマは私の前ではこの制服を着たがらない。

 それなのに、着替えずに真っ先に兄と私のところまで転移してきたという事は、相当追い詰められているからなのかもしれない。


「デール様、ただいま戻りました」

「お疲れ様、ソウマ君。皇帝陛下との謁見はどうだったかい?」

「……最悪でした」

「そうか。決してそれを外では言ってはいけないよ」

「はい。気を付けます」


 声が重たい。よっぽど嫌な話だったのだろう。兄に促されて私の隣に腰掛けたソウマの手をそっと撫でた。皇帝との謁見を一人でするのも相当な負担であったはずだ。

 パトリシアが紅茶を淹れるのをソウマはぼうっとした顔で見ている。


「詳しい話は後で父上に報告してくれるとは思うけれど、本当に大変な謁見だったろうね」

「ええ。グレー家がルーファ様を狙うとは思いませんでした。僕が行方不明なのをいいことに腹が立ちます」

「ソウマ君、言い方」

「すみません。でも家の外では気を付けています。デール様とルーファ様の前だけです」

「ソウマ君……」


 ソウマが自分の手を固く握った。あまりに強く握るせいで拳が揺れている。ソウマは腹が立っていると言っていたけれど、私には怯えているように見えた。


「ペリシアン様の申し入れのこともあって、想定よりも早くムスビ家に戻ることになりました」

「それは急に決まった話だね。準備期間はどれくらいあるのかい?」

二月(ふたつき)です」

「んー一先ず準備はできる期間ではあるけれど、かなり早いね」


 二月後といえば、夏が始まる頃だ。冬頃に戻る予定だったのがかなり早まる。胸の奥がぎゅっと掴まれたように感じた。かなり早い。二月なんてあっという間だ。


「早める必要はあったのですか?」

「ルーファ?」


 気が付いたらそう口にしてしまっていた。兄の声にはっとして口を抑えた。何てことを。ソウマはムスビ家の当主になりたいと願っているのに、それを否定するようなこと。

 恐る恐る顔を上げるとソウマと目が合った。目は大きく開き、驚いている。


「大変失礼しました。皇帝陛下の決定ですよね。ソウマ様のご負担を考えてつい言ってしまっただけです。以後気を付けます」

「いや、咎めているわけではないのだけど、珍しいなと思って」


 兄もソウマと同様に目を見開いていた。皇帝が決めたことに私が直接意見を言うことは少ない。でも、今回の言葉は皇帝の意見を否定するために出た言葉ではない。もっと稚拙で衝動的な感情からくるものだ。この感情は誰にとっても足枷となる。


「実は、ムスビ家に戻る時期を早めたいというのは僕の方から陛下に提案したことなのです」


 ソウマが少し言いづらそうに教えてくれた。顔を向けると申し訳なさそうに眉を垂らしていた。ソウマから提案したことだったと聞いて、少し胸に穴があいたような妙な気持ちになる。


「イヅル国の方でムスビ家は養子をとった方がいいとの話が出始めています。この3年でムスビ家は子に恵まれませんでしたから。今は陛下が養子をとるのならばレイ帝国からと提言されているので、ムスビ家は容易にイヅル国から養子が取れない状態ではありますが、あの二人ならば手段を選ばない。イヅル国内から養子をとれるように色々動くでしょう。ムスビ家の次期当主が決まるのは時間の問題だと思っています。その前にムスビ家に戻りたいのです」


 この3年、ムスビ家は跡継ぎをどうするか頭を悩ませているようだった。遺体が見つかっていないのと、公爵家という身分であることからソウマは現在はレイ帝国およびイヅル国で行方不明として扱われている。レイ帝国の帝国法では、行方不明から5年経過すれば死亡として処理されるが、世論的にはソウマはもう死亡しているだろうという動きになっている。

 ソウマの鍛錬が行われていた場所が災害に見舞われたのだ。イヅル国の元将軍だったブンエイでさえも行方不明の状態。ムスビ家は次の跡継ぎを見つけるべきだと言われていた。


 それに最近、ムスビ家の公爵夫人であるタエは、イヅル国内の屋敷を出ておらず、公務も欠席している。妊娠している可能性があるけれど、妊娠をしていなかったとしても、誰の目も届かない異国の屋敷で長期間外出をしていないとなると、妊娠の偽装をされる可能性も出てくる。

 イヅル国内で誕生したばかりの赤子を自分の子供として出産したように見せかけてしまえば、レイ帝国から養子をとらなくてもよくなる。露見した時の処刑は免れないほどの危険行為だけれど、ムスビ家ならばやってしまいそうな気がした。


 ソウマはレイ帝国所属の間諜としての教育も受けている。私以上の情報を知っていることを思えば、ソウマの判断はきっと正しい。


 ソウマは未来のことを含めてしっかり考えているのに、私は自分の感情を抑えきれず発言してしまった。そんな自分が恥ずかしい。

 自分が情けなくて俯くと、そっと横からソウマが私の手をとってくれた。落ち着かせようとしてくれているのか私の指を撫でてくれる。


「たしかに準備は大変ですが、その覚悟はできているつもりです。でも、心配してくださりありがとうございます」


 顔を上げるとソウマは柔らかく笑いかけてくれた。その笑顔が酷く大人びていて。急にソウマが遠くに感じた。ソウマが未来のことを考えて動いているのは喜ばしいことなのに、そう感じてしまう自分が嫌になる。


 ソウマと兄が話を続けるのをぼうっと聞き流しながら考える。


 私は自分が思っているよりもソウマに依存してしまっているのかもしれない。ずっと傍にいるせいで、ソウマを家族のように感じ、家族を失うことを恐れているのかもしれない。愛が離れていくことに私は敏感だ。この3年で私はそれを深く理解していた。でも同時に、愛で縛ることも、愛を盾に暴走することも自己愛からくるものだとも理解している。


 ソウマの未来を潰さないためにも自分の中でうまく感情の処理ができるようにしなければいけない。二人の会話を聞きながらそう思った。


仕事が繫忙期に入ってしまったため、今週からは落ち着いて作品をあげやすい土曜日(もしくは日曜日)の更新に切り替えていきます。

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