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ルーファの救済  作者: リリアナ佐助
1章
16/44

15 誘拐


「ど、どういう事……」


 ベッドの横に佇むセツを見る。金の瞳が私を静かに見返していた。今聞いた言葉が受け入れられない。ムギとソウマが襲われた? まだ交流会が終わってから数日しか経っていない。


「いつ……いつ襲われたの?」

「数時間前です。私の中からムギの反応が消えました。別の使い魔を送ってソウマ様の行方を探りましたが妖力の痕跡がなく、居場所が分かりません」

「反応が消えたということは、ムギは死んだということ?」

「ええ、恐らく」

「……ムギ」


 セツと同じように白い毛並みを持つムギを思い出す。食いしん坊でお茶目で、ソウマが愛情を持って接してくれていた。そのムギが死んでしまった。何かあった時にソウマを守るよう伝えてはいた。だから、ソウマに何かあればこんなことになってしまうのは分かっていたけれど、でも、それでも苦しい。


「最後にムギとソウマ様がいた場所はどこ?」

「いつもソウマ様が鍛錬を積んでいる寺院の境内です。ソウマ様の妖力の痕跡が消えてから誰も寺院から出ていないそうです」

「まだ境内にいるのかな」

「そう思って使い魔を向かわせたのですが、境内でムギの遺体やソウマ様の姿がなく、妖力の痕跡もないそうです」

「そう、なの……」


 一体どういう事。襲われたのならば、不意打ちであったとしても少なくともムギの妖力の痕跡は残っているはずだ。ムギは攻撃を受けると、その攻撃に反応して周囲にムギの妖力の痕跡を撒く特性を持っている妖魔だ。だから、最悪な事態に陥ったとしても、ソウマのいる場所が特定できるようにムギはソウマにつく使い魔として選ばれた。

 ムギは神獣の使い魔だ。決して弱くはない。そんなムギの妖力の痕跡を消せる存在。


「ソウマ様の師匠が誘拐犯なのでしょうね」

「状況から考えるとそうですね。ソウマ様の師匠と呼ぶのに相応しい力を持っている方ですから」

「今、彼はどこにいるの?」

「同じく行方不明です。ムギが消失する少し前に、ムギからソウマ様の武器を新調するためにイヅル国の首都であるヒイラギに向かう予定だとは聞いていたんですが、ヒイラギにいる使い魔はブンエイを見ていないそうです。寺院から出ている様子もないです」


 ソウマの師匠であるブンエイ・ドエのことに関しては調べていた。イヅル国で5本指に入る強さを持つ秘術使いだ。今は引退しているが、元はイヅル国の将軍だ。

 ソウマに一番近いし、ソウマを一番理解している人だ。ソウマの弱点や特性を知っているし、いつでもソウマに近づけるから警戒していた。でも、経歴に問題はなく、怪しい人物と通じている様子もなかった。ソウマ自身も今まで怪しく感じたこともないと(ふみ)の中でも述べていた。だから、警戒はしつつも信じてもいい人物なのではないかと思っていたけれど。


「セツ、高霊山の寺院に行きたい。連れて行ってほしいの」

「なりません」


 ベッドから身体を起こそうとする私を、セツが前脚で止めた。いつも穏やかな表情をしているセツが、厳しい顔で私を見ている。その姿は正に神獣で、身体がすくんでしまいそうだ。でも、私だって軽い気持ちで言ったわけではない。ソウマが今も苦しんでいるかもしれない時に、安全な場所でただ指を咥えて待っているだけなんてことできない。


「危険過ぎます。ムギやソウマ様は決して弱くありません。それなのに、ソウマ様は今は行方不明となっているのです。何が起きてしまうか分からない場所にルーファ様を連れていけません」

「でも、私がその場に行くことで何か今まで忘れていた未来を思い出すかもしれない。ソウマ様が怪我をしていたら、私が助けられるかもしれない」


 小説の話を割と細かく覚えていると思うけれど、何か忘れている部分があるかもしれない。

 魔法は基本的なものしか扱えないけど、治癒術であれば何かの役に立つかもしれない。非力でも、私に何かできるかもしれない。その思いでセツの前脚に手を乗せるけれど、セツは前脚をどけてくれない。


 小説で描写されていたソウマへの拷問が頭を過る。ソウマは誘拐された時、激しく抵抗したけれど、それを大人数人がかりで抑え付けた。秘術で痛めつけ、何日も何日も暴力を振るい続けた。ソウマが弱った頃に、子供一人がやっと入るほどの穴に無理矢理入れられた。イヅル国への絶対忠誠を誓うまでと、ソウマはそこに閉じ込められ続けた。それでも忠誠を誓わないソウマは引きずり出され、身体を開く拷問にかけられた。

 どうしてソウマが頑なにイヅル国に忠誠を誓わなかったのかは分からない。小説でもそこまでレイ帝国に忠誠心があったようにみえる描写はなかった。でも、ソウマはイヅル国に忠誠を誓うようなことを最後までしなかった。


 交流会で私の治癒術を受けて、うとうととしていたソウマを思い出す。力が抜けていて穏やかな表情をしていた。

 自分の行動が戦争を引き起こすきっかけになるかもしれないと知っても、嘆くことはせずに協力しますと言って笑ってくれたあの姿が浮かぶ。


 最初ソウマに出会った時は、小説通り強い人なのだと思った。けれど、私からの(ふみ)を心待ちにしてくれていた姿を思うと、誰よりも人からの助けを求めている人なのだと分かった。かつての私もそうだった。強くあろうとしたけれど、誰かに守って欲しかった。ソウマを守りたい。あの穏やかな表情が消えてしまう姿を見たくない。


「セツ、今からすごく自分勝手なことを言うね」


 セツを説得するために、息を一つ深く吐く。心を落ち着ける。


「セツに高霊山の寺院に行ってソウマを助けてほしい。使い魔達でも妖力の痕跡を追えないということは、よほど強い結界がかけられているのだと思うから」

「私はルーファ様から離れられません」

「知ってる。だから私も一緒に行きたい。私はまだまだ力不足だけど、ソウマ様が怪我をしていたら何か助けになれるかもしれない。妖魔は人間を治癒する力はないはず」


 妖魔の妖力は人間の身体と相性が悪い。よって妖力の回復を早めることはできても、人間を癒すことはできない。私は未熟で、大怪我をしている人間を癒すことはできないけれど、止血や痛みの軽減くらいは役に立てるはず。何もないよりはいいだろう。

 私程度の力では、何にもならないことは知っている。連れて行ってもらえるよう自分の良さをただ必死にアピールしているだけに過ぎない。でも、ソウマを助けたい。


「これは私にとって大事なことなの。私の判断でムギを死なせてしまったし、今もソウマ様が恐ろしい思いをしているかもしれない。そんな中で部屋の中でただ状況が改善するのを待つなんてできない。私は力になるとソウマ様に言ったの」


 自分の無力さに悔しくなって手を握る。リベラの件で弱気になっている間にソウマの行方が分からなくなった。私はうまくできるという慢心からリベラに無理に接し、ソウマの事に関しても、使い魔がいる事と妖力を交流会で安定化させた事から少しは安心だろうと油断した。まだ誘拐犯になり得る人が見つかっていなかったというのに。


「このままソウマ様に何かあったら私の心が耐えられない。ムギの死を無駄にしたくない。セツ、だからお願い。ソウマ様を助けてほしい。私も連れて行ってほしい」


 セツの瞳が揺れていた。先ほどの固い表情が少し迷っているように見える。私はセツに頼らなければ何もできない。非力な自分が情けない。でも、今はこうして頼むしかない。





「……分かりました。行きましょう」


 長い沈黙の後、セツがそう言ってくれた。顔を上げるとセツの頬の髭が垂れていた。


「セツ!」

「ただし、必ず私の言ったことは守ってください。私から離れないこと。自分の命を守る行動を一番にすること」

「分かった」

「それと、これを飲んでください。ルーファ様、手を出してくださいますか?」


 慌てて両手をセツに差し出した。セツが尻尾を振ると、手のひらの上で何かが青白く光り出した。光が何回か回転し、手のひらの真ん中で集束していく。光が弾け、手のひらに何かが落ちる。飴玉くらいの大きさのビー玉のようなものが手の中にあった。


「これは私の主様の力の一部を凝縮させた妖力の欠片です。これを飲めば一度だけ主様がこの欠片に込めた秘術『雷電』が扱えます」

「雷電?」

「はい。人間の小隊一つ分くらいは壊滅できる強力な秘術です。何か危険が迫ったら意識を集中させて『雷電』と言ってください。主様の力がルーファ様を守ります。密室では使わないようご注意ください。もちろん危険が迫らないよう私が全力でお守りしますが」


 何だかすごいものを貰ってしまった。小隊一つ分って、とんでもない。人間に使ったら間違いなく死んでしまう。さすがに人は殺めたくない。生きるか死ぬかの場面でのみ使おう。


 セツに促されて妖力の欠片を口に含んだ。不思議な味だった。表面は甘いけれど、歯を立てると苦みが中からとろりと流れ出す。その苦みが唾液と混ざるとぱちぱちと口の中で弾け、それがそのまま喉の奥に落ちていった

 妖力の欠片を食べ終えると、身体の奥が温かくなった。魔力を無限に使えるような気持ちになる。


「本当はもっと扱いやすい力をお渡しできればよかったんですが、主様の力をこれ以上に弱めることが難しく、これでも最小の出力でして……申し訳ございません」

「そんな、謝らないで。私が非力なばっかりに、気を遣わせてしまってごめんなさい。ありがとう」

「非力ではありません」


 ずいっとセツが身体を乗り出し、私に顔を近づけた。驚いているとセツがぺろりと私の鼻の先を舐める。


「ルーファ様が今まで必死に動かれていたからソウマ様の危険をすぐに察知できたのです。ルーファ様だから、主様はルーファ様の力になろうとしているのです。できない事があるのは当たり前です。私だってできない事はあります。誰も完璧にはなれません」

「セツ」

「ルーファ様の事を心配するあまり、心を無視してしまい申し訳ございません。ソウマ様を助けに行きましょう。そして……ムギの遺体も見つけましょう」

「うん」


 ムギ。帰ったらちゃんと埋葬しよう。今はムギの犠牲を無駄にしないためにもソウマを助ける。どうか無事でいてほしい。



 セツは私の部屋に幻影を見せる秘術をかけてくれた。私の幻影がベッドで休んでいる。ここ数日は精神的に落ち着かなくて、早く床に就いていた。今日も家族には早く寝ると伝えているので、今夜中に帰って来ることができれば、不在なのは家族に知られない。


 でも、ソウマが大怪我をしていた場合、ベイリー家に連れ帰って来ることになるかもしれない。そう考えると、家族に助けに行くことを伝えるべきだろうか、一瞬迷うけれど、きっと止められる。私自身が助けに行くことは許されない。ベイリー家の私兵を出すくらいのことはしてくれるかもしれないけれど、私兵がイヅル国にそう簡単に入国できると思えないし、その対応を待つと間に合わない。やはり、このままセツと行くべきだ。


「ごめんなさい」


 誰にも届かない謝罪を残して、私はセツと高霊山に向かった。


◇◆◇


 高霊山に到着する少し前、アルデルファ・ベイリーとしての姿を見られるわけにはいかないということで、私はセツの秘術によって猫に姿を変えられた。

 夜に紛れる真っ黒な身体に細い手足。身体が軽い。どこにでも駆けていけるような気持ちになる。セツを下から見上げるとすごく大きい。体毛で顔が見えない。


 今はセツと一緒にソウマが鍛錬をしていた寺院の前まで来ていた。道中にいた使い魔達から話を聞いた限りだと、ムギとソウマ、そして師匠のブンエイはこの寺院から出ていない。寺院の周りは静かで人の気配を感じない。セツを見ると真っすぐ寺院を見つめていた。


 青白い体毛が月の明かりを集めて光っている。毛先の一本一本に光が集うのを見ていると、セツが月から来た使いのように思えてくる。セツはやっぱり神獣なのだ。


「少し歪みのようなものを感じます」

「歪み?」

「はい。自然にできたものではなく……何かを隠しているようですね。高度な結界が張られている気がします。相当な秘術の使い手でなければここまでうまくできないはずです。使い魔達の目をここまで欺けるとは」


 やっぱりブンエイが裏切ったのか。そう考えるとムギとソウマの両方が逃げ切れなかった理由も分かる。


「時間もあまりありませんので、荒業ではありますが、無理矢理こじ開けてもよいでしょうか?」

「こじあける?」

「ええ。こじ開けるというより、結界を木っ端微塵に破壊するが正しいかもしれませんが」


 セツから物騒な言葉が聞こえる。こんな誰もいない静かな夜にそんな事をしてしまえば居場所を知らせているようなものだと思うけれど。


「でもそうすると、ばれるよね?」

「はい。ばれます。一斉に敵に襲われるでしょう。でも時間が限られている中で動くのであればこれしかありません。敵がきたらこの場にいる使い魔達と共に敵を捕らえます。その間にソウマ様達を探しましょう」

「分かった」


 寺院を見上げる。何重にも屋根を持つ大きな寺だ。寺院の大きさは分かっていたつもりだったけれど、思っていたよりもかなり大きい。限られた時間内でソウマを探せるだろうか。

いや、弱気になっていたらだめだ。必ず見つけ出す。ソウマをこれ以上苦しめたくはない。


「ルーファ様、行きましょう」

「お願い、セツ」


 セツが私に覆い被さると、私の首の後ろを咥えた。親猫が子猫によくやっているのを見るあれだ。案外痛くないものなのだな。

 そのままひょいっとセツに背に投げられ、慌ててセツの背に着地する。どうやったか分からないけど、しっかりと足で着地できた。


「振り落とされないように秘術をかけておきますが、爪を立てても構いませんので、私にしっかり掴まってください」

「分かった」

「では、行きます」


 セツがそう言うと周りの空気が張り詰めたようなものに変わった気がした。

周りにいるセツの使い魔達がセツと私を見つめ、次の動きを待っている。光る目がいくつもこちらを見ている。

 使い魔達は一体何匹いるのだろう。いくつもの目、目、目。その多さに圧倒される。


 セツが静かに走り出した。足音を立てず、一気に寺院に近づく。入口に到達する一歩手前でセツが大きく吠えた。すると、セツの目の前で薄氷が割れるような音がした。目の前に壁があるわけではないし、セツが何か踏んだということでもない。


 何もない空間に青白い亀裂が入る。どうなっているのだろうと思う間もなく、亀裂が空中で広がっていった。これが結界だろうか。


 セツが再び吠えると亀裂が破裂し砕け散った。危険を感じて身を伏せるも、セツのおかげか砕け散った結界の欠片は私には当たらなかった。


「今だよ! みんな入って! 敵を見つけたら捕らえること! 襲われたら反撃!」


 周囲でセツが結界を解くのを待っていた使い魔達が、セツの声を待っていたと言わんばかりに茂みから飛び出した。セツの使い魔は猫の姿をしているものが多い。数十匹の使い魔達が私とセツを越えて次から次へと寺院の方に向かっていく。


 セツも私がセツに捕まっていることを確認すると寺院に向かって走り出した。


「結界を破ったからでしょう、ムギとソウマ様の妖力の痕跡が分かりました。ムギは1階あたりで襲われていますね、そしてソウマ様は……地下です!」

「地下があるのね」

「ええ。ソウマ様やムギを始めとした使い魔達から地下があるような情報がなかったことを考えると、やはり敵は相当な秘術の使い手なのでしょう。私達がムギをソウマ様につける前から結界を張っていたのではないでしょうか」

「前々からソウマ様を誘拐する機会を伺っていたみたい」

「そうでしょうね」


 その時、寺院の方から爆発音が聞こえた。目を向けると煙が立ち込めていた。煙の中でばちばちと火花が散っており、焦げた臭いが鼻の奥を突く。


「来ましたね」

「うん」


 セツに身体を寄せた。考えてみると危険がここまで迫るような経験は初めてだ。前世では身体を壊して亡くなってしまったけれど、それとは全く異なる種類の命の危険。肌で感じる緊張感、浅くなる呼吸、セツの逆立つ毛。すべてが現実なのだ。ここは「破滅のアデル」の世界であるけれど、そうではない。小説の中の世界ではない。私が生きている、本物の世界なのだ。


「ルーファ様、大丈夫です。私がいます。命に代えてもルーファ様に指一本触れさせません」


 セツが私を安心させようと温かく声をかけてくれる。それに救われる。でも、私はセツに命を賭けて欲しくなんてない。

 そう言おうと口を開いた時、煙の中から人影が現れるのが見えた。一人、三人、五人……どんどん人が増えていく。全員、頭の上から足先まで黒い装束に身を包んでいる。黒い布で顔を覆っているせいで表情は分からない。ただ、一人一人からとてつもない悪意を感じる。視線だけで殺されそうだ。


「妖魔が何でこんな場所にいるんだ」

「分からねぇよ。でも、師匠の結界を破ったんだ。相当強い。気を抜くな」


 セツと私を囲むように相手が動く。セツは毛を逆立てながら相手の動きを見ている。慌てている様子はない。

 それにしても、セツの姿を見ても神獣だと気が付かない人もいるのか。驚いた。ソウマは一発で気が付いたのに。力量の差なのだろうか。


「ルーファ様、目を瞑ってください。そしてしっかり掴まっていてくださいね」


 セツが静かにそう言った。逆らう理由はない。目を瞑り、力いっぱいセツに抱き着いた。一呼吸おかずにセツが動いたのが分かった。ぐるんとお腹が回るような浮遊感。風を切る音が耳元でする。すごい速さでセツが動いているのが分かる。


 ひゅっと音がした後に、男が絶叫する声が聞こえた。断末魔の叫びとはこのことなのだと遅れて理解する。一人一人の命が刈られる音がした。肉が裂かれ、血が噴き出し、人間が叫ぶ――そんな音がする。「助けてくれ」と命乞いする声も聞こえたけれど、その声も掻き消されていった。


「まだ目を瞑っていてください。建物の中も見れたものではありませんから」

「終わったの……?」

「先ほど現れた人間達は片付けました。ただ、敵は彼らだけではないでしょう。そのまま地下まで進みます」


 あれだけの人間に囲まれていたと言うのに、あっという間にセツが終わらせてしまった。片付けたって……きっと人を殺めたということなのだろう。あれだけの音がして怪我だけで済んだとは思えない。


 私がソウマを助けたいとセツに願ったことで死んだ人がいる。ぶるりと身体が震えた。いや、想像できたはずだ。ソウマを攫った人達は敵で、ソウマを取り戻そうとしたらもちろん襲ってくる。襲ってきたら身を守るために反撃しないといけない。分かっていたはずなのに、いざ自分の選択が至った結果に直面すると恐ろしくなった。私の決断一つで誰かが死んでしまう。


 あちこちで何かが爆ぜる音がする。威嚇する音、金属がぶつかり合う音、誰かの走る音。先ほどまで静かだった寺院が、嘘みたいに騒がしい。あちこちで争いが生まれているのだと分かる。

 私は目を瞑ったままでは駄目だ。自分が選択をした結果を見なくてはならない。誰かを救うという正義のもとで動いていたとしても、自分のしたことから目を背けず、向き合わなければならない。目的のために心を捨ててしまわないよう。自分の形を保っていられるよう。


 セツに守ってもらってばかりではいられない。


 私は瞼を持ち上げ、目を開いた。


10/9 修正

妖力を交流会で回復させている

妖力を交流会で安定化させた

※本作において、回復と安定化は同義ではないため

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