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第98話 いつわり

「ナオ、どうしてここに」


「どうして、探してくれなかったの」


「探していた。探していたんだ。でも、どうやって、ここに来たんだ」


「そんなことどうでもいいじゃない。色々とあたしも、経験したんだよ。でも、私の話はいいの。ケン兄の話を聞かせてよ」


 猫耳ニットキャップのライトを当てて、よく見る。どう見てもナオだ。別れたときと同じ服を着ている。不自然なところと言えば、少しも濡れていないところと、汚れや染みが少しも付いていないことぐらいだ。


 ああ、あのとき、ナオは荷物として何をもっていただろうか。もう、思い出せない。今は手ぶらのようだが、スマホは持っていたと思う。ダメだ。確かなことは何も思い出すことができない。


「ケン兄。少しつかれているんじゃない」


「ああ、そうだ。少し疲れている」


「足も痛そうよ」


「ああ、そうだ。左足も痛い」


 ナオが両手を広げて抱きついてきた。ぎゅっと抱きしめる。本物だ。暖かい。まさか、こんなに早く再会できるなんて。心が軽くなっていく。全身の力が抜けていく。ぼんやりと、床を見る。涙が、床にこぼれ落ちた。ナオから体を離し、両手で自分の頬を打つ。


「どうしたの。ケン兄」


「勘弁してくれよ」


「もっと喜んでよ。やっと再会できたんだから」


「本物だったらな」


「本物よ。だって、ほら、触ってみて」


「影がない」


「どういう仕掛けか知らんが、お前には影がない」


ガカ ゲハイカイ ガブ エイリョウラン


「ねえ、嘘でしょう。あたしに向かって、そんなこと」


光掌底


 手のひらが触れた瞬間、ナオは、テレビ画面の電源が突然落ちたときのように、消え去った。


「まったく。本当に、勘弁してくれ」


「ばれちゃった」


 新しいナオが、こんどは二人、山となっている財宝の上に現れた。


「お前たちは何者だ」


「あたしたちは、財宝の番人。ディーラー様に頼まれたの。盗みに入ってくるやつらから財宝を護って欲しいって。だから、銀貨一枚、この部屋からもちだしたらダメよ」


「でも、ここまでたどり着いたのは、あなたがはじめて。うれしくなっちゃう」


 ナオに化けている二人は、突然歌い始めた。目の前に、草原が現れた。幻影だとわかっていても足が痛みだした。その草原には俺を殺した一団が控えていたからだ。


 逃げたい。どこに。頭の中ではこれは幻影だとわかっているのに。あの草原じゃなく、部屋の中にいるのは間違いないのに出口が見えない。双子の歌声は聞こえるが、姿は見えなくなっていた。末端ゴーグルの表示を確認するが、何も表示されていない。


 突然、両耳を強くぶたれた。誰が、どこから攻撃を受けたのかわからず、パニックになった。突然、目の前にホイットの顔が現れた。ホイットは、痛いほど俺を強くだきしめた。ホイットの肩越しに草原は消え去っていた。財宝のある部屋で俺たちは抱き合っていた。


 ホイットの唇が動いているが、声は聞こえなかった。先程、耳を強くぶたれたせいで鼓膜が裂けたようだ。ホイットが、左手を引いて俺を引きずるようにして出口に向かった。


 本物のホイットだろうか。偽者だったらどうする。疑念が次々とわき上がる。なんども立ち止まろうする俺をそのたびに、ホイットは強く引いていった。そうして俺は、軽バンにもどることができた。



***



 砂浜に腰掛けホイットと二人、万能薬を飲む。

 聴力が戻ってきた。満月が、地平線に沈もうとしている。いつの間に、そんなに時間がたったのだろうか。ホイットがため息とともに言った。


「良かった」


「かっこつけた割りに、たいしたことなかったべ」


 相変わらずロラさんは、辛口だ。軽バンのドアは閉めておけば良かった。耳が痛い。


「ありがとう、ホイット。ほんとに命拾いした」


「あまりに帰りが遅いから、無理を言って出してもらったの」


 あの草原の風景がフラッシュバックしてきた。左足が痛む。左足太ももを叩いて、もみほぐす。


「どうして、耳を塞ぐことに気がついたんだ」


「部屋に入って、まず音が変だと気がついた。まあ、偶然。以前にも似たことがあったから」


 軽バンから、アガットが降りてきた。


「ああ、よく寝た。あまりにも何も見えないから、フランと抱き合って寝ちまったよ。どうやら無事だったみたいだね。うまくいった?」


「ホイットのおかげで、なんとか」


「ふうん。後ろにいるとまったく何やっているかわかんないからつまんない」


「その方が良いよ。こっちは死にかけた」


「みんな命がけだ。シャワーでも浴びて朝飯にすっか。その前にフランを起こさないと」


 アガットが、もう一度軽バンの中に戻っていった。ホイットがクスッと笑った。軽バンから、フランが降りてきた。


「体調は、大丈夫?」


「エライ、頑張ったようでんな」


 ディーラーに優しい言葉をかけたと思うと、何故か損した気分になった。


「そんな怖い顔しなさんな」


「ええ物が手に入ったやろ。残りの財宝もくれてやる」


 フランの影から、二つの影が立ち上がり、フランが3人になった。


「これは、双子のレムスとロムス。魔声の使い手や。相手の思考を読み取って幻を見せることもできる。雷蛇と一緒に使ってええよ」


「誰に言っている」


 フランが、膝から崩れ落ちた。ホイットが、すかさず受け止めた。


「大丈夫です」


 こんどは、フランの声だ。


「しばらく、ディーラーはおとなしくしていると思います。満足したようです。でも、次は、ヴィントーンに連れて行けと言っています」


 慌てて聞き返す。


「どこ?」


 フランが申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません。そこまでは、わかりません」

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