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第92話 疑念から

 アガットは、なれなれしくフランの肩に手を回した。


「お嬢は、7商の一つ、モールド家の娘なんだろう」


「はい」


「それが、何の関係がある」


「にぶちんだな。教会ともめて得する商人なんていやあしないんだよ。なあ」


「はい。親にも一度相談しようと思いましたが、辞めました。私はだから、一人で調べてみようと家を飛び出し冒険者になったんです」


「ギーガーの古迷宮に思い入れがあったように、聞いたことがあるけど」


「それも、夢に出てきたからです。古迷宮の入口を見るまでは半信半疑だったのですが、ひと目見て、ここだと確信しました。信じてもらえないと思いますが」


「あたしは、信じるよ。夢とか直感、そういうのは、とっても大切なんだ。かつての人々は、みんな大切にしていたことなんだけど、教会の奴らが幅を利かせるようになってからみんな信じなくなった」


「今なら、なんとなくその意味がわかります」


「そうだろうな。お嬢とは、気が合う。これからも上手くやっていけそうだよ」


 アガットは、フランの肩をポンポンと叩いた。まったく、お前は、会社の管理職オヤジか。城門が見えてきた。


 天気は急速に悪化しているようだ。どんよりとした灰色の薄い雲が城下町全体に流れ込んでいる。


「あたしは、裏から入るよ。宿屋の予約を頼むよ。別に、ケンちゃんと同じベッドでもいいけど」


 ホイットが、すかさず「ちゃんと人数分とるから余計な心配はするな」といった。アガットは、ホイットにウインクをしてから道を外れていった。


 城門をくぐると、そこは賑やかな露店がならぶ通りだった。


「お嬢さん、お兄さん、店じまい前に大安売りだよ。ちょっとで良いから見ていきな」


 ひげ面の親爺さんが、声をかけてきた。露店の店先に並んでいるのは、この辺りの畑でよく見かけた果物だ。種類も数も少なく、心なしかしなびていて売れ残り感が漂っている。ホイットとフランは、親爺さんを無視して歩いていく。立ち止まった俺をみて、親爺さんが愛想笑いを浮かべた。


「全部買ってくれたら、半額でいいよ」


 品物を確かめる。貧相な品だが傷んでいるところはない。この果物が食べ頃かどうかはわからないが、人が悪そうには見えない。今のところ、フランの荷物などをしまうために、保管室をレンタルしているから、非常食として、そこにしまっておくのもわるくない。こういう食料品を安く買ってやりくりしてみるのは有りだろう。食事のバリエーションが増えるのも良い。食後のデザートというのも気分がいい。


「親爺さん買うよ」


「毎度あり」


 親爺さんは、満面の笑みで、袋に、品物を詰め始めた。露店のざわめきが突然途絶えた。親爺さんが、声を潜めて、こっちに早く来なさいな、と自分の脇を指さした。親爺さんの言うとおり、露店の親爺さんの隣へ移動すると、法衣を着た2人とその四方を守るように甲冑を身に纏った4人の兵士が、目の前を通り過ぎた。


 法衣には見覚えがあった。守門官リースや詩唱官アレッシアと同じだ。先頭を歩く詩唱官とおぼしき男が、鈴を鳴らすと、隊列が立ち止まった。ついで謳うように大声を出した。女性のような高い声だ。


「聖女様が天上よりご降臨なされました」


 辺り一帯の群衆からどよめきが沸き起こった。そのどよめきで、詩唱官の次の言葉が聞き取れない。再び鐘がなった。こんどは、民衆をざわめきを鎮めるために激しく打ち鳴らされた。辺りが静まる。


「聖女様の聖地巡礼が始まります」


 民衆のざわめきが歓声に変わった。詩唱官は、まだ何かを告げていたが、もう何も聞こえなかった。しばらくして歓声が突然、ピタッと収まった。聞こえてきたのは、ディーラーの声だった。親爺さんに代金を払い、袋をひっつかんで、騒ぎの中心に向かう。


 フランが、守門官らしき男ともみ合っていた。ホイットが、必死でフランを羽交い締めにし、口を押さえている。最悪だ。おっさん声の少女が騒いでいたら、いやでも怪しまれるに決まっている。野次馬たちをかき分けてホイットとフランに近づく。


「すみません。すみません」


 もしも、ここでフランが煙化などしたら、収拾がつかなくなる。


キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


飄歩


 守門官らしき男とフランの間に自分の体を滑り込ませる。男と護衛の兵士達に緊張が走り動きが止まった。そのスキに、大声を張り上げる。


「すみません。こいつが何かしましたでしょうか」


 俺は、思いっきりフランの頭を殴った。どうか、フランに戻りますように。我に返った男が怒りの表情を浮かべ、フランを指さした。


「小娘、もう一回言ってみよ。聖女様を冒涜した罪を償わせてやる」


「何を口走ったかわかりませんが、まだまだ子供です。きつーく言い聞かせますから、どうかどうか、ご勘弁ください」


 俺は心を鬼にして、もう一度フランの頭を殴り、頭を押さえつけ地面に顔を押しつけた。フランは、抵抗しなかった。きっとディーラーと入れ替わりに成功したのだろう。それまで静観していた兵士が、仲裁に入ってくれた。


「それぐらいで、勘弁してあげてはどうか。まだまだ布告する場所が残っている。いそがないと、交代の時間もある」


 守門官らしき男は、捨て台詞を吐いて、遠ざかっていった。街のざわつきが戻ってきたのを確かめて頭を上げる。ホイットと目があい、微笑みあう。


「これじゃ、命がけだ」


「まったくね」


「何をごちゃごちゃ言うとる」


 おっと。ディーラーに戻っている。叩きすぎたか。慌ててフランの口を塞ぐ。ホイットと二人でフランを引きずるようにして、裏路地に連れ込み、正拳をフランのみぞおちに打ち込んだ。


「ごめん、フラン」


ここまで覚えた技。


属性言祝三唱。

火属性

局所 エネルギー上昇

ゲツゲ フゲイン エイト ズイガシン

氷属性

局所 エネルギー下降

ザンバ ゲショウエイ ギョウラク スキュウシュン

風属性

範囲拡大 静から動へ

ガカ ゲハイカイ ガブ エイリョウラン 

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