第88話 ナーワ追放
ホイットが、心配そうにたずねた。
「本気で、ナーワにもどるの。ヨハンの依頼では、実家に送り届けてほしいということだったはずだけど」
「ナーワの城壁がもう直ぐ目の前に現れるだろう。降りてくれ。ここからは、歩いて行く」
「どうしてだよ」
アガットは、不満顔だ。
「ケイバンで、そのままナーワに突っ込んじゃえば良いじゃん」
「良くない」
みんなが降りたのを確認して、軽バンに鍵を閉めた。ホイットが俺の横に並んで歩く。左足が痛み出した。
「何か考えがあるのね」
「ヨハンには、申し訳ないが、これ以上、フランさんと一緒に行動はできない」
フランは、うつむいたまま、何も返事をしなかった。
「それに、あの骸骨のことを報告しないと。もしも、いきなりヤツがここに攻め入ったら、大変なことになる」
「あたしは、正面から行くのは反対だよ」
「ここらへんに白き獣は居ないようだけど、きっとまだあの街では、防衛態勢を解いてないはず。見張りがいるに違いないよ。あんたらは、命令違反しているわけだろう」
「だから、歩いて行く。俺たちは許されるのかどうか見極めてから、対応を考えたい」
「お嬢、ひとりで向かわせたほうが良いって」
「それも、できない」
「人が良いって言うか、馬鹿というか。頭が固いというか。じゃあ、あたしは、ここで待っているよ。奴らの前に出るのはごめんだ。そんでなくても嫌われ者だからね。奴らがどう出るか見物だね」
城壁が見えてきた。見張りが立っている。
「打つな味方だ」
大声を張り上げ、手をふる。
近づくにしたがい、見張りの一人が銀翼の射手、アッジーだと分かった。
「おおい、アッジー城門を開けてくれ。フランを連れ戻してきたぞ」
アッジーの顔が冴えない。アッジーの後ろから、わらわらと人が現れた。ヨハンの姿もある。相性の悪いアレッキオ司教がいるのは、愛嬌だろう。一番最後に、救世軍のフェッド隊長が現れた。
「止まれ」
「名を名乗れ」
「ずいぶん他人行儀だな。俺は、バルサのケン。ここにいるのは、銀翼のフランとバルサのホイットだ。話をしたい。中に入れてくれ」
一歩、前にでる。その目の前の地面に矢が突き刺さった。左足が痛みだした。
「どういうつもりだ」
アレッキオ司教が、叫んだ。
「こっちがどういうつもりか聞きたい。最初にあったときから、お前達からは、女神の息吹を感じなかった。いつかは裏切ると思っていたが、まさか、ナーワが大事なときに裏切るとは、まったくとんでもない奴らだ」
「裏切ってなどない。俺たちは」
「だまれ、異端者め」
もう一本、地面に矢が突き刺さった。
「それ以上近づけば、命はない」
「話を聞いてくれ、ギーガーの古迷宮にとんでもない化け物が現れた。早く対応しないと大変なことになる」
「どうせお前達が、そのとんでもない化け物の封印でも解き放ったのだろう。それとも、邪教の秘術で召喚でもしたのか」
「馬鹿なことを言ってないで、話を聞いてくれ」
「立ち去れ。これ以上異端者の言葉に耳を汚されるわけには、いかん」
フェッド隊長が鉄板の様な剣を構えた。
「まずいぞケン。あれは、遠く離れていても威力は半端ない」
「残念だ。こちらとしては、話は終わりだ。防衛戦の持ち場を放棄し逃げだし、安全になってからもどってくるような臆病者をこの城内に入れるわけにはいかん。早々に立ち去れ。さもなくば、斬る」
「ほんとうに危険な魔獣がいるんだ」
「心配無用だ。教皇様は、救世軍の他の部隊にも出動を命令されたのだ。近いうちに、援軍がやってくるだろう。バリースエイト王国軍もやってくる。裏切り者の心配など不要」
ホイットが、腕を引いた。
「ケン、行こう。私たちは、私たちの仕事にもどろう」
「フラン。どうする」
フランは、顔を上げた。
「ヨハン、アッジー、ディリア。今までありがとう。あなたたちの恩は一生われないから。さようなら」
それからフランは、きっと城壁の上のアレッキオ司教とフェッド隊長を睨んむ。さっきまでうつむいていた姿はない。フランの体のどこにそれだけの力があるのか分からないほどの大声でさけんだ。
「あなた方は、間違っている」
アレッキオ司教の顔が赤くなった。
「構え」
アッジーまでが、矢をつがえた。いよいよ、やばい。
「退却、退却」
俺たちは、元来た道を全速力で戻った。背後で、俺たちをあざ笑う者達の笑い声が聞こえた。しばらく歩くとこんどはアガットが、笑い転げている。
「いい様だ。それにしてもお嬢の啖呵は、良かったぞ。ケンちゃんよりずっといい。とろこで、ケンちゃん。その左足どうしたんだ。怪我しているわけじゃないだろう」
「左足のことはほっといてくれ。それに笑っている場合か。俺たちは、ナーワの敵になったんだぞ」
「いいや違うね。神聖教会を敵にまわしたんだ。もしかしたら、今後、異端審問官に狙われるかもしれないぞ」
「なんだ、その異端審問官って。ホイット、知っている?」
「噂は。神聖教会が国教に決まっている国で、神聖教を信じていない人を取り締まるらしい」
「冒険者もか」
「国によるらしいが、冒険者ならば大抵は、問題にならないはずだ」
「だってよ。アガット、脅すな」
「それぐらい気を付けたほうがいいっていうことだよ。特にあたし達はね。誰も神聖教会を信じてないんだから」
「俺は無信教だけど。フランは、違う」
「いいえ私も。神聖教会を信じてはいけないとおもいはじめています」
アガットは、ニヤニヤしている。
「何がそんなに楽しんだ」
「さあ、ね。お嬢に直接聞けばいいさ」
「ケン様。どうか、私をあなたとともに行動させてください」
「ヨハンとの約束通り、実家まで送るよ」
「いいえ、実家にはもどりません」
「どうするの」
「ケン様と一緒にやはり世界の歴史を調べなおしたいのです」
「無理だ。そのお、言いにくいんだが、ディーラーの件がある。面倒見切れないと思うんだ」
「殴ってください。ディーラーが出てきたら殴ってください。そうすれば、ディーラーはすぐに私に交代するはずです」
「嘘だろう」
「わかった、お嬢。あたしが殴ってやるよ」
「黙っててアガット。ディーラーとは、何者?」
「それは、わかりません。彼とつながっていることもあるのですが、つながっていないことも多いので」
フランは、片膝をついて、両手を地面につけ、頭を下げた。両手の中指と人差し指だけを曲げている。
アガットが、言った。
「これは、古い印。完全服従の印。どんなことをされても文句は言わないという印。男冥利に尽きるね」
「そんなこと、しない」
「よかったな、お嬢。一緒に行こうぜ。よろしく頼むよ。おかしくなったら殴ってやるからな」
「ちょっと待て、アガット。お前はここでお別れだ」
「何、言ってんの、全ての精霊様のお導き。ついて行くに決まってんだろう。地獄の門の手前まであんたについていくよ。さあさあ、あのケイバンを出しておくれよ。こんなところでボヤボヤしてると、救世軍の奴らに襲われちまうよ」
これで、軽バンの定員は満席になってしまった。
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