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第87話 運命

 穴の奥からうなり声が聞こえてきた。


「おい、ケンちゃん。早く覚悟をきめろよ。精霊が騒いでいる」


「なんて」


「ナーワを取り囲んでいた白き獣たちが戻ってくるってさ」


「おーまいがー」


 どうせ、ここで、フランを地上に帰しても、きっとまたここに戻ってきてしまうだろう。そのときは、さらに状況が悪化している可能性もある。幸い、今、白き獣たちはナーワに出払い中だ。


「ホイット。フランのことを頼めるか」


「わかった」


 ホイットは、フランを背中に背負うと、軽快に出口に向かって走り出した。


「アガット、あの奥に突っ込むぞ」


「了解だ」


 一輪バギーに再び二人乗りをする。


「アガット、しっかり掴まっていて」


「やっちゃえ、ケンちゃん」


 穴の中に、アクセル全開で突っ込む。目に染みるほどの死臭が鼻をしげきし、脊髄反射的に嘔吐した。


「きったねえな」


 謝る元気もない。光は一輪バギーと猫耳ニットキャプのライトだけだ。光に照らし出されたのは、細長い通路だ。途中、いくつもの何もない球場のようなだだっ広い部屋を通り過ぎたが、基本一直線だ。2,3分ほど走ると、一段と広い部屋に出た。部屋の形は、円形で、天井はドーム型に膨らんでいる。青い炎を灯したローソンが一定の間隔で壁にかかっていた。


 ゆっくりと部屋の中心に向かって行く。部屋の中央には、真っ四角の光沢のある石造りの祭壇がもうけられている。高さは、膝上ぐらいで、その周辺だけは、天井からライティングされているかのように、なぜか明るい光に満たされていた。


 祭壇よりもさらに部屋の奥には、石造りの玉座が置かれ、そこに、法衣を着た骸骨が座っていた。骸骨の手には、王笏セプターがしっかりと握られている。王笏の柄には、くすんだ色の石が何粒か埋め込まれていて、王笏の天辺には透明な髑髏が乗っている。


「おい、あの骸骨、動かねえよな」


 アガットも緊張しているようだ。声が震えている


 ロラが、静かに言った。


「あれは、白き羊頭のシャーマンリッチ、レオダニス。魔将軍の一人だっぺ」


「ロラさん。どうして襲ってこないの」


「部屋の真ん中にあんのが、フランが要っていた聖遺物レリック、黒ダイヤのネックレスだっぺ」


「その力によって、ヤツの力の大部分が封印されている状態だ」


「あれが、フラン、もしくは、ディーラーが手に入れたいもの」


「そうだ。でも、それは、レオダニスの復活も意味すっぺ。今のオメエでは、絶対に勝てねえぞ」


「ところで、ロラさんは、ディーラーのことを何か知っているの」


「なん知らねえよ」


 ほんとうか? どうも怪しい。アガットが、ヒョイっとバギーを降りた。


「おい、馬鹿。やめろ」


「ここまで来て何をブツブツいってんの」


 バギーを降りようとして、左足が麻痺したようにしびれていて言うことをきかなかった。降りるつもりが、地面に転げ落ちた。こんなときに。


 止めるに入る間もなく、あっという間に、祭壇の上のネックレスを手にとってしまった。


 骸骨の目に、青い光が宿るのを見た。一気に部屋の温度が下がる。完全白衣を着ているのに、歯の根が合わず、ガチガチと音を立てた。


「何してんの」


 アガットが、俺よりも早く再びバギーに飛び乗った。


「さあ、ケンちゃん、全速で逃げて」


 アガットが、ほいっと、黒い光る石のついたネックレスを手渡した。


「言われなくても。ロラさん、指示お願い」


 迫り来る冷気と腐臭を背中に感じた。末端ゴーグルには、地図が表示されているが、恐怖が頭を覆っていて何も自分で考えることなどできなかった。ただ、ロラの指示にのみ耳を集中し、それにのみ体を反応させた。


 ああ、数日前と同じ事をしていると思いながらも目の前の壁、曲がり角をスピードを落とさずクリアーしていく。アクセルをフルスロットルから緩めることは、死に追いつかれることを意味することだけは、なぜか理解できた。


 地上に飛び出ると、まず真っ赤な夕日が目に飛び込んできた。同時に大型のワシタイプの白き獣とフランとホイットが戦っていた。なんてことだ。足の速いヤツは、もうここまで戻って来ていたのか。地上にでても、寒気と吐き気はいっこうに去らなかった。


 ぐずぐずしていられない。軽バンの鍵をあけ、一輪バギーを乱暴に軽バンの荷台に詰め込む。フランが俺たちに気づき、叫んでいる。


「ケン様」


 どうやら、ディーラーではなく、フランに戻ってくれたようだ。後は、一刻もはやくこの場を去るのみ。


 アガットは、すでに助手席に乗り込んで待っていた。迷宮の入口に、法衣を身につけた骸骨が現れた。アンデットなら、少しぐらいは太陽の光にひるむものだと期待したが、ヤツにとって太陽の光は関係ないようだ。軽バンの車体が揺れた。


「今度は、何?」


 大型のトラ型の白き獣が軽バン側面に体当たりをかましていた。フランのゴーレムが、白き獣に体当たりをかまし、転倒させた。


「早く乗って、フラン」


 辺りをみると、まだ遠いが、周りに同型の白き獣が数体目に入った。こうなったら、強行突破しかない。骸骨の高笑いが聞こえた。何が面白いのか。フランが運転席の窓に顔をだした。


「何、してんの。乗って」


「ウチと取引をしろ」


 こんどは、ディーラーか。


「そのネックレスをウチに渡せば、ヤツから逃してやる」


 本当に大丈夫なのだろうか。でも、こうなれば、やけだ。俺は、ネックレスをフランに渡した。ネックレスは、フランが手にした瞬間、光を放った。骸骨の高笑いがやんだ。取り囲んでいた白き獣たちも、後ずさりをはじめた。


 ホイットが「上」と叫んだ。見ると、上空を旋回していた先ほどのワシ型の白き獣が、フランめがけて急降下してきた。フランは慌てず、何事かつぶやいた。


 すると、フランの影から、黒いコッペパンのような塊が、いくつも飛び出し、白き獣に当たった。バランスを崩し地上に激突した白き獣は、そのあともずっと痙攣をしていた。


 それは、一瞬の出来事で、何が起こったのかすぐには理解できなかった。アガットが、手を打ち鳴らして喜んだ。


「お嬢、結構やるね」


 俺は、窓越しに、フランを抱きかかえると、人をそういう風に扱うのは初めてだが助手席に向かって投げ入れた。自分でもどこにそんな力があったのか不思議な気分だ。火事場の馬鹿力というやつか。


「しっかり捕まって。ホイット、逃げるよ」


 軽バンの天井から、ホイットが返事をした。


「了解」


 俺は、アクセルを踏み込んだ。なるべく手薄そうな白い獣の群れに突っ込んだ。サイドミラーを見る。迷宮の入り口から、陽炎のように揺らめいた何かや、羽の生えた黒い何かが飛び出てきた。遠くで再び魔海竜の雄叫びを聞いた様な気がした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


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