第84話 救世軍
ナーワの最高級ホテルの一室に通された。銀翼のヨハンが一人、壁によりかかり腕組みをして立っていた。豪華な家具がしつらえられている部屋で、中央にあるテーブルの上には、豪華な花瓶に、これでもかと言うほど色鮮やかな花々が生けられていた。
「フランの調子は?」
「眠ったままだ。体はどこも悪くない。どうして眠り続けているのか皆目見当がつかん」
「そうなんだ。ところで」
「カネなら、ちょっと待ってくれ。必ず払う」
「そうじゃない。どうして俺たちは、ここに呼び出されたんだろう」
「さあ? ギルド長から今朝、ここに来るように命令されただけで、俺も事態を把握していない。ただ、この前の騒ぎと関係している可能性は高い」
この前の騒ぎとは、フランをギーガーの古迷宮から連れて逃げ出した後、古迷宮から冷気とともに、白き獣たちがあふれ出してきた件のことだろう。実際に見ていないから真偽のほどは不明だが、古迷宮の入口には冷気で霜が付いているらしい。そこだけ雪が降ったようになっているとも聞いた。
さらにこの話が厄介なのは、出てきた白き獣のほとんどがたぶん属性持ちだということだ。ヨハンが天井に向かって話した。
「新手の白き獣たちがナーワに向かって進軍しているらしい。アレッキオ司教は、このことを神聖教会本部に連絡し、つい昨日、神聖教会救世軍がナーワにやってきた」
「その話は知っている。教会は、あらかじめこうなることを知っていたのではないかと、街で噂になっているよ」
「ああ、それは完全にデマだ。実は、グランツル沖で目撃された魔海龍の調査のために派遣されていた救世軍が、こちらに移動してきたらしい」
「救世軍って何?」
ヨハンが答えようとしたとき、部屋の奥のドアが開いて、武装した兵士が数人出てきた。はじめに入ってきた男は、若干左足を引きづっていた。負傷兵かと思ったが、その男がテーブルの真ん中の席に座った。他の者は、その男の後ろに直立したままだ。
「銀翼のヨハンさんとバルサのケンさんですね。お忙しいところお集まりいただき申し訳ありません。私は、救世軍一番隊隊長フェッドと申します。どうぞ、お座りください」
おとなしく、フェッドの指示に従う。
「魔獣の群れが、ナーワに向かってゆっくりですが進行しております。教会としては、なんとしても、ナーワを防衛したいと考えております。つきましては、お二人の知見を是非ともお教えいただきたい」
俺は、手を挙げた。
「質問していいですか」
「どうぞ」
「魔獣とは何ですか。俺たちが見たのは、属性持ちのようですが白き獣です。他にもそういう厄介な敵がいるということですか」
「いいえ違います。教会は、属性持ちの白き獣を特別に、魔獣とよんでいるのです」
ヨハンが、質問した。
「どれくらいの規模でですか、襲ってくるのは」
「我々の調べでは、数百におよびます」
思わず、口に出た。
「無理だ」
フェッドの顔が一瞬で険しいものに変わった。
「何が無理でしょうか」
言葉にすごみが籠もっていた。
「属性持ち数百と戦うのは無謀だと言ったのです。属性持ちと戦った経験から言っているんです」
「なるほど。それではケンさんは、逃げろとおっしゃるのですね」
「それが現実的でしょう」
「ケンさんは、冒険者だ。どこの土地でも暮らしていける。だが、農民は、商人は、どうされます。体の不自由な者もいるでしょう。土地を捨てて、家族を見捨てて逃げろとおっしゃるのかな」
「死ぬよりはいい」
「奴らをほっといたら、いずれこの世界に安住の地などなくなります。どこに逃げようとも同じなのです。ただ、被害が広がるだけで」
「しかし、数百の魔獣と戦えるだけの戦力がこちらにはないでしょう」
「あなたのレベルからは、そう見えるでしょうが。心配に及びません。作戦は、私たちが考え実行します。それよりも、ギーガーの古迷宮での出来事をお話ください」
正直、カチンときたが、ヨハンが、俺が反論する前にフランが関与した経緯を俺の代わりに話はじめた。
「つまり、未知の通路、部屋がまだ隠されていて、そこから魔獣が現れたということか」
「ところで、銀翼のヨハンさんは、どう考えておられますか」
「何をですか」
「この街をどうするべきだと」
「なるほど、お二人の感想はわかりました」
「では、お二人には、我々の闘いをごらんになっていてもらいましょう」
こうしてフェッドとの会合は終わった。翌朝、ナーワに魔獣の第一陣が姿を現した。
城門の上で腰を下ろしていた俺とホイットの前に、銀翼のメンバーが現れた。
「ヨハンさん」
「おお、ケン。元気か」
「元気ですが、気が重いです」
ヨハンは、苦笑いを浮かべ、俺の隣に座った。
「弱虫の俺たちは、高いところから、救世軍の闘い方を見ていろ、ということらしい」
「銀翼まで弱虫扱いされるとは、思いませんでした。すみません」
「いいさ、戦わずにすむのは気楽でいい。救世軍の英雄の闘いを上から観戦させてもらうよ」
「先日聞きそびれましたが、救世軍ってなんですか」
「正式には、神聖教会救世軍という。まあ、教会の軍隊だな」
「教会が軍隊をもっているんですか」
「そうだ。それもただの軍隊じゃない。戦闘のプロだ。さらに、ここにいるのは、その第一部隊。教会の最高戦力といっていい。どこの国の軍隊よりも強いっていう噂だ」
「昨日、ちょっと見ましたけど、20、30人ほどしかいませんよ。それで、属性持ち数百と戦えるわけないじゃないですか」
「奴さんたちには、勝機がみえているんだろう」
「そろそろあの隊長さんが出てくるころだろう、折角良い席を用意してくれたんだ。お手並み拝見しようぜ」
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