第83話 牛頭人身の白き獣
ヨハン達は、前線本部へ向かって走りだした。完全に銀翼の姿が見えなくなってから軽バンの後ろのハッチを開けた。一輪バギー(10MP/日)を降ろす。
見た目は、タイヤのお化けだ。タイヤの直径は、1.5メートルほどある。その高さは胸の辺りまである。タイヤの回転に運手や同乗者が巻き込まれないように、タイヤはカウルで半分以上が包まれている。自立制御システム付きで一輪車だが人が乗っていなくても倒れない。軽く押しても引いても倒れない。タイヤは、大きいこと以外にも特長がある。小さなタイヤがバギーの進行方向と直角になるように並べられている。これらの小さなタイヤも独立して回転するため、真横に水平移動もできる構造となっていた。複雑な構造だがタイヤの幅は狭く、人がすれ違えるほどの道幅なら乗車したまま通過できそうだ。ロラさんの説明では時速は、直進200km以上、水平移動は40kmほどになるらしい。まさしく、魔導具だ。
ホイットにも端末ゴーグルを渡し、古迷宮に先行してもらい、情報を共有する。フル装備を装着後、軽バンの鍵をかけた。
「作戦はシンプルだ。手分けして、フランを探す。みつけだしたら、バギーに乗せるなりして、できるだけ速やかに、迷宮を脱出するだ。戦闘は絶対に回避」
「了解」
バギーにまたがる。安定感はバッチリだ。
「ケン、先に行くわよ」
「おお、よろしく」
アクセルを開いた。一輪バギーは自動的に、車体を前傾させ、加速した。迷宮の床は、石をタイルのように加工して作られていて、平らで走りやすいが、その分、滑りやすい。一輪バギーの転倒防止機構が反応し勝手にドリフトなどをするから、なかなか真っ直ぐ進まない。かなりのじゃじゃ馬だ。
迷宮内に明かりはないが、猫耳ヘルメットについているライトとバギーのヘッドライトが、遠くまで周辺を照らしてくれる。
端末ゴーグルには、迷宮の地図とホイットの位置を表示してくれていた。ホイットや俺が調べたところは、緑の線で上書きされていき、どこが調べてあり、どこが調べてないか一目瞭然だった。
迷宮は、通路と部屋で構成されていた。視界を遮るような構造物や置物などはないから見逃す心配は、考えなくてよさそうだ。古迷宮の中に白き獣がいないわけではなかった。ただしとても少ない。群れで行動する白き獣はいなかったし、幸い人型とも遭遇しなかった。
迷宮に入って、十数分間でほぼ一階の探索は終了した。末端ゴーグルでホイットの探索範囲を見ると、ホイットはすでに下の階に移動したようだ。地図によると、古迷宮は、地下二階建てだ。
「ケン、見つけた」
ホイットの位置を示す光点が、比較的広い部屋、地図には広間と書かれている、で止まっていた。全速でホイットの元に向かう。
「急いでケン。フランの様子がおかしいの」
広間に到着すると、ホイットがフランと取っ組み合いの喧嘩をしていた。フランは自分の体と同じぐらいの大きさのリュックを背負い、手には、山登りのために用意していたのか木の杖を両手に持っていた。壁には、松明が灯っていて、まるでこの訪問を誰かが予想して準備していたかのようだ。部屋の広さはサッカーができるんじゃないかと言うほど広く、天井が高い。
もちろん、体術でホイットが遅れをとることはないのだが、ホイットがフランを拘束しようとすると、フランの体は、煙となってするりとホイットの手から逃れてしまうのだった。
「邪魔すんな、小娘」
フランの口から出たのは男の声だった。
「ワレたちに、ワイを捕まえることなどできへん」
フランと目があう。その表情には怒りがやどっていた。
「この状態は、むっちゃ容認できん。はやく聖遺物を手に入れへんと、エライことになるぞ」
「フラン。あなたこそ、何を言っているの。変な魔導具なんて使わないで。あなたの帰りを銀翼のメンバー全員が待っている。何か重要なことがあるのかもしれないけど、ここはいったん戻りましょう」
「愚か者め」
二人の会話に割ってはいる。
「フラン、いったん戻ろう。ここは危険だ」
フランの表情が一瞬歪んで、元の無表情に戻った。
「邪魔や。のけ」
「どこに行く。ここは行き止まりだ」
「行き止まりな訳あるか。阿呆め」
そのとき、部屋の入口とは反対側の壁の一部が崩壊した。壁の穴から、人型の白き獣が現れた。顔には、前に戦った人型のように目鼻はないが、頭の横には、立派な雄牛の角がついている。身長は2メートル以上はあるだろう。ちょっとジャンプしたら天井に角が突き刺さりそうだ。両手に手斧を持っている。
ロラが叫んだ。
「なんてことだあ。ここは秘宮。秘宮だっぺ。引き返せ。今すぐに」
「あの先や」
フランが壁の穴、牛頭人身の白き獣に近寄っていく。
「うそだろう。引き返せフラン」
「ホイット、あいつは魔術を使うのか」
「知るわけない」
たしかに。
「逃げろ、フラン」
牛頭人身の白き獣がフランに前蹴りをした。当たる直前、フランの体は煙化し、蹴りは空を切った。フランは、何事もなかったように、牛頭人身の脇をすり抜け、壁に到着した。穴に入ろうとした瞬間、フランの体は、吹き飛ばされた。受け身もとれず風に舞う木の葉のように床を転がった。冷気が、迷宮の床を伝って流れてきた。
「ケン、フランをお願い」
ホイットは、ナイフを片手に牛頭人身に向かっていった。一輪バギーをフランの横につけた。外見上は異常は見えない。気を失っているだけだ。したたかに床に打ち付けられたから、脳にダメージがあるかもしれない。万能薬を持っているが、気絶しているこの状態では飲ませることはできない。
「ホイット。引こう」
ホイットが、間合いを切った。
「先に行って。すぐに追いつく」
壁にできた穴からは、煙が床を這って流れ出てきた。ドライアイスの煙のように冷気をともなっていて刻一刻と部屋の温度を下げていく。何かがあの穴の先にいる。それが何かはわからないが、かなりヤバいことだけは、何故か理解できた。
俺は、フランを抱きかかえ、一輪バギーの後ろのシートに乗せた。一輪バギーは、意識のないフランを乗せてもバランスをとり続け、倒れない。神レベルの自立性能に感謝だ。俺も一輪バギーをまたぎ、フランの両腕を自分の肩にのせ、胸の前でフランの手をクロスさせ、右手でその両手をしっかり固定する。バギーに乗りながらも、フランの体重を背中に感じる程度までフランの両手を引っ張っておく。
右手でハンドルを持ち、自分の体を固定すると、体重移動で一輪バギーを操作する。
「ロラさん、道案内お願い」
「いいから、さっさと逃げろ」
逃げはじめるとロラさんの声だけを頼りに一輪バギーを操作した。ただスピードを落とさないことだけに集中した。一刻も早く外に出たい、その衝動に支配されアクセルを戻す余裕はなかった。
ここまでで新しく覚えた技。
前蹴火印
蹴り打点に爆火の印を追加する。好きなタイミングで印を発火させることができる
踏氷印歩
足払いの軸足に氷印を残す 好きなタイミングで、凍結を発動させる
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