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第81話 白き人型の獣

「ホイット、末社を埋めるぞ」


「わかった。ヨハン。ケンに近づけさせないで」


「わかった」


 神域内で、白き獣たちは、力を弱める。そのことに気づいてから、迷宮の外を徘徊している白き獣たちを蹴散らしながら、次々とギーガーの古迷宮の周りに末社を埋めていった。いつかは地図を完成させなければならない。いつかはやらなければならない仕事なら、今やってしまおう。一挙両得だ。多少、いつもよりは危険だが、他のパーティーが護衛してくれるこのタイミングを逃す手はない。


 空に煙りが立ち上った。


「黒狼が、所定の位置に付いたみたいだ。あっちも頼む」


「了解だ。銀翼も、次の地点に移動してくれ」


「わかった」


 黒狼と銀翼は末社を埋める地点で待ち構えて、俺の護衛に回る。秘刀は、あらかじめ俺が指定した場所に、黒狼と銀翼をそれぞれ誘導する係だ。清明と鉄拳団は、それぞれ黒狼と銀翼のサポートに回っている。


 討伐開始3日目だが、今日中にはほぼ迷宮周辺を神域で囲むことができそうだ。一部が中社の神域にもできそうだ。


 一匹の小鳥。雀のような小鳥が、軽バンの窓から、車内に入ってきて、助手席に止まった。その小鳥がしゃべった。


「おい、まずいことになった」


 秘刀のリーダーコロカの声だ。コロカは、俺やフランと同じ魔導具使いで、この小鳥は、コロカの魔導具だ。このおかげで遠隔地にいる他のパーティーとも円滑に作戦を進められていた。



「何か問題でも」


「人型が出てきた。まずまちがいなく、属性持ちだ」


 動悸がした。左足がチクチク痛む。緊張してきたようだ。人型の白き獣は、一般的に知能が高く、人の言葉を理解すると教えられていた。単独で行動もするが、他の群れを率いて連携して戦うこともできる。道具も使うし、魔術も使うという。並の冒険者と変わらない身体能力を持ち、さらに、今回は、属性持ち。つまり、魔術の他に、何か特別な力をもつということらしい。


「どんな属性ですか」


「そこまでは、わからん」


「早く助けに行ってくれ、ケン。黒狼といえども、心配だ」


「了解です」


 急いで駆けつけたが、すでに黒狼のリーダーベローネは、全身白い人型と戦っていた。ベローネの足元には、泥だらけで若い男が倒れていた。ベローネの後ろに控えてデスサイズを持っていた男だ。足の付け根から血を流している。手足が痙攣しているように見えた。


 クラクションを鳴らしながら戦闘中の2人の間に突っ込む。ベローネは、軽バンをよけるために、さっと後退した。追撃しようとした人型を牽制するため天井に乗っていたホイットがすかさず、煙玉を投げ入れた。人型とベローネを分け隔てるようにケイバンを停車させた。軽バンを降りて、人型と向き合う。


 全身を白いタイツで覆っているような質感だ。耳も、目も、口も、鼻もない。のっぺらぼうの等身大の人形のようにも見える。動くマネキンといったほうが正確か。なにしろ不気味だ。


 バンの天井では、ホイットが中腰で人型を牽制していた。相手の武器は、槍だ。槍といっても金属の棒の先だけを尖らせただけのような無骨な武器だ。もし、鉄でできている棒なら、ものすごく重いことだけは、理解できる。振り回しているだけで、凶器になりうるということだ。


 完全白衣をきているが、あの槍先で突き刺されたら、命はないような気がする。矛盾グローブには、硬化と衝撃吸収放出作用があるが、はたして、あの穂先を防ぎきることはできるのか。すくなくとも、わざと効果を試してみようとは思わない。ベローネが倒れている者を抱きかかえ叫んだ。


「しっかりしろ、まだ死ぬんじゃない」


「ホイット、万能薬を」


 ホイットは、うなずき、バンを飛び降りた。足元は、ぬかるんでいて、ホイットの足がくるぶしあたりまで地面に沈み込んだ。まともな雨などここ数日降っていない。つまり、これがヤツの属性なのだろう。こういうとき無重力シューズは役に立つ。泥に足をとられることはない。泥の表面に浮いている感じ。それでいてグリップも利く。素晴らしい。これだけで、レンタルしたかいがあるというものだ。


キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


飄歩


拳相


 人型は、槍を構え、間合いを詰めてきた。ヤツは、このぬかるみでも足を取られている様子は見えない。さすが、自分の得意なフィールドに作り替えただけのことはある。


 間合いに入った途端、突いてきた。突きは、するどいが、受け流せるだけの余裕はある。


 相手の技が止まった瞬間、掌底、光掌底(光属性の追加ダメージ)、相手が防御の姿勢を取ったところで、寸勁を防御の上から当てる。


 人型は、防御の姿勢のまま、後ろに吹っ飛んで行った。完璧だ。上級に移ってからは、連続技として5つまでつなげられるようになったので、攻撃の幅が広がった。


 さらに、拳相の性能が抜群だ。相手の攻撃を見切ることができるので、恐怖心を抱かずに立ち向かえる。もうそれだけで勇気がわく。


 槍を杖代わりにして、人型が立ち上がった。


キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


 飄歩で一気に間合いを詰める。人型は、今度は殴り殺そうと槍を真横になぎ払った。地面に転がり、槍をよける。泥が顔にはね、口に入る。こちらの体勢が立ち直るまえに、頭上に槍の柄を振り下ろされた。間に合わない。とっさに、振り降ろされた柄を手でつかむ。手の平に衝撃が走ったが、痛みはない。グッジョブ、矛盾グローブ。


 人型が槍を引く前に、得られた衝撃を放出してやる。槍だけが、人型の手を離れ、勢いよく人型の頭の上へ吹っ飛んでいった。


キョハイ ゲミョウゲ ツエイ セイサンジン


 がら空きになった人型の胴体に縦拳、縦拳、縦拳烈火、正拳氷牙をぶち込む。


 最後の正拳氷牙が人型のみぞおちにクリーンヒットした。当たった部位が凍結している。絶対人には使ってはいけない技だ。凍結した腹は、凍傷にかかって壊死してしまうだろう。


 人型が、何かを叫んだ。それは、人の叫びとは異なり腹の底からでてくる音の塊のようなものだ。人型の顔の真ん中に小さな穴が開いた。穴の闇の中に一瞬光が見えた。反射的に、その穴からのがれるように、頭を横に傾けた。左耳が熱い。肉が焼けた嫌な臭いがした。背後で爆発音がして、地面が揺れた。とっさに自分の耳をさわると、べっとりと焦げた肉と血が手についた。


「あああああああああ」


 爆発で巻き上げられた土埃が辺りに充満した。


「落ち着け、ケン」


 ホイットが、俺の首元を引っ張り、しゃがませた。その俺たちの頭上を空気を切り裂いて何かが通り過ぎた。地面に巨大な塊が落ちた音がした。


 耳元でホイットがささやいた。


「大丈夫だ。万能薬を」


 差し出された万能薬を一気に飲む。痛みが引いていく。土埃が晴れると、人型の胴体が真っ二つに切られ倒れていた。その側に、ベローネが立っていた。


「助かった、ケン」


 息苦しい。心臓の鼓動が一向に静まる気配がない。左足の痛みは、しびれに変わっていた。


「今のところ、人型はこいつだけだ。早くその札を埋めてくれ」


 俺は、だまってうなずくと、ホイットに支えられ左足を引きずりながら札をとるため軽バンに向かった。


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